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肆 化け化けガム
化け化けアイス
しおりを挟むまだまだ寒いな、と思いながら、冨樫はコートの前をかき合わせ、いつものように、あやかし駄菓子屋に向かっていた。
ビル街の角を曲がると、薄暗い路地が現れ、公園の向かいに、駄菓子屋の灯りがぽつんと見える。
……やばい、と冨樫は思っいてた。
何故、毎度こうもすんなり、たどり着いてしまうのだ。
今日なんか仕事も順調で、まったく疲労も感じないのに。
疲れた人間以外、たどり着けないはずのあやかし駄菓子屋が、またあっさり目の前に現れた。
俺も風花みたいに、あやかし化してるんじゃないだろうな、と冨樫は不安になる。
壱花が聞いていたら、
「いやいやいやっ。
私もあやかし化してませんけどっ?」
と叫んでいたところだろうが。
ガラリと重いガラス戸を開けると、ライオンが入り口に寝ていて、オウムが、
「倫太郎、ドM、ドM」
と叫びながら店内を舞っている。
……あいかわらずの無法地帯だ。
冨樫の中の常識センサーが退避勧告を出していたが、そのとき、子狸たちと遊んでいたらしい壱花がレジの前で振り向いた。
「あ、冨樫さん、いらっしゃい~っ」
その肩には前回手に入れたケセランパサランがのっている。
いや、のっているというか、壱花の肩付近でふわふわしているというか。
真っ白なうさぎのしっぽのようなそれは、一時期、イケメン化け狐、高尾のせいで、店内にあふれ返っていたのだが、いつの間にか、数が少なくなっていた。
何処に消えたんだろうな……。
客についてってるとか?
家のタンスとか開けたら、いきなりいそうで怖い、と思ったとき、ガラガラと戸が開き、生活に疲れたサラリーマンが入ってきた。
ライオンを見て、うわっ、と叫ぶが、結局、そのまま入ってくる。
常連の人間たちは、この無法地帯に慣れてきたようだった。
ま、ライオン食いつかないしな、と思いながら、
「なにをしている?」
と壱花に訊いた。
「アイス作ってるんです」
と下を向いて、なにかを蹴っていた壱花が笑って言ってくる。
……アイス?
見ると、この間買ってきたステンレスのボウルと、誰かが何処かから持ってきたらしい、少し変形したもうひとつのステンレスのボウルがガムテープで止められ、ボールのようになっている。
「蹴ったらアイスになるとかいうあれか」
「そうなんですよ。
中にビニール袋に入ったアイスの材料と、氷と塩が入ってるんです」
氷にはとけるときに周りの熱を奪う性質があるのだが。
氷に塩をかけると、とけるスピードが上がり、周囲のものの温度を急激に下げる。
その性質を利用してアイスを凍らせるようだ。
また、蹴ることにより、アイスの材料が攪拌され、空気を含んで美味しくなるらしい。
「……昔は、手で混ぜてたもんだがな」
「えっ? 冨樫さん、自分でアイス作ったりしてたんですか?」
と壱花が驚いたように振り向く。
「ちょっと手伝ったことがあるだけだ。
ああ、パフェが嫌いになる前な」
そう、ぼそりと言った。
「そうなんですか。
ああ、アイス食べますか?」
と壱花はレジのあるカウンターを振り向くと、お弁当などに使うアルミカップを差し出してきた。
中には懐かしいような色の少しとけかけたミルクアイスが入っており、赤いさくらんぼがのっていた。
木の使い捨てスプーンを渡される。
「ご試食どうですか?」
壱花は串にささった丸いカステラを眺めていた、さっきのサラリーマンにも声をかけていた。
あ、ありがとうございます、と壱花を見て、少し赤くなりながら、サラリーマンはそれを受け取っている。
「待て、風花。
ご試食って、これ、売り出すつもりなのか?」
「美味しくできたら、売ってもいいかなーって。
みんな楽しそうだし」
と壱花は子狸たちを見る。
人間の子どもの姿をしているのも、狸のままのもいるようなのだが。
サラリーマンには人間の子どもの姿になっていない狸は見えていないようで、微笑ましげにボールを蹴っている子どもたちを眺めていた。
この子たち、なんでこんな時間に店にいるんだ? とは思っていることだろうが。
「アイス、もうひとつ、どうですか?」
「いや、もういい」
と冨樫がアルミカップを返すと、壱花は食べ終わったサラリーマンからもそれを受け取りながら、
「アイス、もうひとつ、いかがですか?」
と訊いていた。
「いっ、いえいえ、もう結構ですっ。
ありがとうございますっ。
美味しかったですっ」
サラリーマンはそう言って断ったあとで、駄菓子をいくつか買い、寒い夜の街に身を震わせながら出ていった。
入れ違いに倫太郎がやってくる。
「ありがとうございますー」
といまいちやる気のない声でサラリーマンを振り返り言った倫太郎は、
「壱花。
買ってきたぞ」
と白いビニール袋を壱花に向かい突き出した。
中にはアイスの材料が入っているようだ。
「あー、寒かった」
とストーブで手を炙ろうとする倫太郎にも壱花はアルミカップを差し出した。
「アイス、どうですか」
「……今、寒かったって言ったろう」
と倫太郎は受け取らない。
「作りすぎたんだな……」
と冨樫は呟いたが。
作りすぎてるわりには、更に材料を買い足し、まだ蹴っている。
「いや~、楽しいんですよ。
蹴るとアイスができてるっていうのが」
と言いながら、壱花はボウルを拾う。
わくわくした顔の子狸たちとカウンターでガムテープをはがし、開けていた。
「はい、開いたよ~」
と言いながら、奥の座敷から高尾が出てくる。
その手にはさくらんぼの小さな缶がふたつあった。
「さくらんぼのってると、なんかいいよね」
と高尾は笑う。
「昔の喫茶店のバニラアイスみたいでさ。
ほら、銀の器に入ってるあれ」
「いいですよね。
アルミカップがそれっぽくて。
このまま売り出しましょうか?
化け化けアイスとか名付けて」
と壱花が言った。
「……どの辺が化け化けなんだ。
食べると、あやかしになるとか?」
そう冨樫が言うと、いえいえ、と壱花は笑う。
「単にあやかしと一緒に作って、この店で売ってるので」
だが、それを聞いた高尾が唐突に、
「あ、それ、いいねえ」
と言った。
「食べると、なにかが起こるアイス。
煙みたいにどろんと消えるとか」
「透明人間になるとか?
そういえば、カードを指でこすって、その指をすり合わせると煙が出るのってありましたよね。
あれで指をこすりながら、アイス食べて、どろんと……」
と言う壱花を、
「みんなが透明人間になったら、危なくて歩けないだろうが。
何処でぶつかるかわからないのに」
と諌めるフリをしつつ、倫太郎はビニールにアイスの材料を詰めていた。
楽しんでますね、社長も……と思ったとき、壱花が言った。
「でもこの店、ありそうですよね。
食べたら、なにかが起こる駄菓子とか」
「実物が現れるクジはもうやったけどな」
とオウムに頭にのられながら、倫太郎はガムテープでボウルを止めていた。
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