あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

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玖 安倍晴明の恩返し

式札をもらいました

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「壱花、あれ持ち歩いてんのか?」

 仕事中、壱花が社長室を訪ねると冨樫もいて、倫太郎がそう訊いてきた。

「はい、大事にここに」
と壱花が四つ折りにして入れていたヒトガタをポケットからゴソゴソと出すと、

「折り畳むな……」
と倫太郎が眉をひそめ、冨樫もバチ当たりめ、という顔をする。

「いや、いざというとき、使えるように肌身離さずと思いまして」

「いざというときって、いつなんだ……」
と冨樫に問われ、

「……いつなんでしょうね?」
と壱花はその白いヒトガタを見た。

 腕組みして、壱花の手にあるそれを観察していた倫太郎が問うてくる。

「そもそも、それはなんなんだ?
 穢れを移せる形代かたしろか?

 それとも、式神になる式札しきふだなのか?」

 そうですね。
 なんなんでしょうね、と思いながら、壱花は鼻にそれを当ててみた。

「なんか香のようないい香りがしますよ。
 ありがたい感じがしますね」
と言って、倫太郎に、

「……お前、今朝、コピー用紙で量産できそうだと言ってたぞ」
と突っ込まれた。

 もちろん、これはコピー用紙などではなく。
 こうぞかなにかで作られた和紙のようなのだが。

「うーん。
 なんなんでしょうね。

 お礼にやろうってくれたんですから、式神ですかね?
 特に移したい穢れとか、今、思いつかないですし。

 式神ってなにができるんでしたっけね?」

 小首をかしげる壱花に冨樫が言う。

「自分の代わりに用事とかしてくれるんじゃなかったか?」

「そういえば、晴明さんも式神にお掃除とかさせてたらしいですしね」

 壱花はそのヒトガタを一枚とり、命じてみた。

「式神、お掃除して」

 ヒトガタはひらりと舞い降りた。

 床の上で前後左右に揺れている。

 ……揺れている。

 いつまでも、揺れている……。

「……これはなにをしてるんだ?」

 デスクから身を乗り出し眺めていた倫太郎が言う。

「……床をお掃除ですかね?」

「なんて使えない奴なんだ」
と呟いた倫太郎は、ふと、眉をひそめた。

 なにごとか考えているようだ。

「そういえば、式神って自分に変化へんげさせたりもできるんですよね?」

 そう言ったあとで、冨樫は式神をじっと見つめている。

 ……仕事を代わって欲しいのだろうか。

 日々疲れているのかな、と思いながら、壱花は言った。

「そうか。
 式神、私自身にもなれるんですよねっ。

 ということは、私をもうひとり出せば、仕事の処理能力も二倍になりますねっ」

「風花が二倍になってもな……」

 まあそれで、ようやく一人前か、と冨樫が言い、

「面倒ごとが二倍になるだけじゃないか?」
と倫太郎が言う。

 だが、なにごとにも行動が早い壱花は、その瞬間、すでに一枚とって命じていた。

「私になあれ」

「考えなしに使うなーっ」
と男二人が叫ぶ。

 ヒトガタはまたヒラリと床に落ち、ミニ壱花が現れた。

「……ヒトガタのままのサイズにしかなれないのか」

「びっくりするくらい役に立たなさそうですね。
 風花じゃなくても」

 いつぞや駄菓子屋で大量発生したミニ壱花より、さらに小さい。

 そのミニミニ壱花は、倫太郎のデスクによじのぼると、何処かでもらったのか、デスクの上に、二、三個置いてあった飴を引っ張りはじめた。

「ほんとうに役に立たないな、どっちも」

 倫太郎はミニミニ壱花に飴の袋を開けてやりながら、そう呟く。

 最初のお掃除の式神も、隅々まで綺麗な社長室ではすることがなく、ただ揺れているだけだった。

「壱花、式札、六枚しかないんだろ。
 無駄にするなよ」
と言った倫太郎だったが、揺れている式神を見ながら、また眉をひそめる。

「でもなんか……この形、何処かで見たことあるんだよな」

 この役に立たない感じも気になる、と言う。

 こんな白いヒトガタがある場所というと――。

「神社とかじゃないですか?」

 そう壱花が言うと、倫太郎は、神社か、と口の中でその言葉繰り返した。

「神社……。

 ……神社……、寺……。

 ……境内」

 そうかっ、と倫太郎は立ち上がる。

「何処で見たのか、思い出したぞ、その式神っ」

 えっ? と壱花たちは倫太郎を振り返った。



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