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玖 安倍晴明の恩返し
冨樫さんのおうちに来ました
しおりを挟む「ただいま」
久しぶりだと聞いているのに、冨樫は素っ気なくそう言い、玄関を入っていった。
「あら、ほんとうに帰ったのね」
立派なおうちの立派な玄関に立派な着物を着た冨樫によく似た美貌の女性が立っていた。
……不思議だ。
前に写真で拝見したときも思ったが。
冨樫さんはお父さんと同じ顔だという高尾さんに似ているが。
このお母さんともそっくりだ。
冨樫さんのお父さんとお母さんは似ていないのに。
子どもの顔って不思議だな、と思ったとき、富樫が母親に壱花を紹介して言った。
「秘書課の後輩の――」
そこで、冨樫はそれ以上の説明をするかどうか迷ったようだったが。
「風花壱花」
とだけ言った。
「か、風花です」
と壱花は頭を下げる。
冨樫の母、美玲は壱花を上から下まで見、
「この方があなたが今、お付き合いしているお嬢さんなの?」
と訊く。
『今』ということは、『前』の方がいたのでしょうか、と壱花は冨樫を見上げたが、冨樫は壱花を見下ろし言う。
「『今』もいないし、『前』もいない。
いても、この母親には紹介しない。
なにを言われるかわかったもんじゃないから。
ところで、電話でも言っといたと思うけど。
お父さんが行方不明になったとき配ったビラは?」
「晩ご飯食べて行きなさいよ」
「見つけたのなら出してよ。
お父さんが帰ってくる前にビラを見たいんだ」
今の『お父さん』のことのようだった。
前の父のビラを探すという行為が、今の父に対して申し訳ないことだと冨樫は思っているようだった。
「壱花さん、あなた、なにがお好きなの?」
ところで、この親子、まるで会話が成り立っていないのだが、いいのだろうか……。
ここで何が好きか答えたら、まるで冨樫さんの彼女みたいになってしまうな、と思いながらも、美玲の迫力には勝てず、
「ハ、ハンバーグですかね?」
と子どものようなことを言ってしまう。
冨樫は溜息をつき、
「じゃあ、ハンバークで。
でも、こいつは俺の彼女じゃないから。
社長の……」
と言いかけ、言い直す。
「社長と縁の深い人なんだ」
「あらそうなの。
まあ、それはそれとして、珍しくあんたが女の子連れてきたんだもの、もてなすわ。
中学校の班活動で、うちの家に班のみんなが集まったとき以来ね、女の子が来るの」
どんだけ昔の話ですか……。
冨樫はもうそれには答えずに、
「上の部屋探すよ」
と言って、二階に上がっていこうとする。
壱花も美玲に頭を下げたあとで、ついて行った。
「面白いお母様ですね。
そして、写真で見た以上のすごい美人ですね」
と玄関ホールを振り返る。
そこにはもう、美玲はいないようだったが。
「美人かどうかは知らないが、父もなにがよくて母と結婚したんだか」
そこで、冨樫はチラと壱花を振り返り言った。
「そういえば、お前とうちの母親、似たとこあるよな」
いや、どの辺がですか。
美しいところだといいのですが。
絶対違いそうですね、とその蔑むような冨樫の目線に思っていた。
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