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理由がありませんっ
俺が代わりに舞ってやろう
しおりを挟む「なんかあれ、可愛いカップルだよねえ」
と神楽殿の脇でおじさんたちが深月たちを見て笑っている。
清春は、
「なにがですか」
と機嫌悪く言った。
「あいつは絶対、悪い奴ですよ」
と陽太を見て言うと、
「なにが悪いの、清ちゃん」
とおじさんたちに言われる。
清春は照れたように俯く深月と、そんな深月を微笑ましげに見ている陽太の方を見ながら、
「俺以外で深月と結婚する奴はみな悪いヤツです」
と言い放つ。
「はいはい、困ったお兄ちゃんだねえ」
とみんな、笑って舞台に上がって行ってしまったが、清春はまだ振り返り、二人の方を見ていた。
「お、おはようございます~」
最近……かなりの確率で出会っている気がするんですが、杵崎さん。
翌朝、駐車場でまた杵崎と出くわした深月は笑顔を押し上げ、挨拶した。
「……おはよう」
と杵崎は言う。
……睨まれている。
いや、目が悪いからか。
どちらにしても怖い、と思いながら、深月が総務と支社長室のある建物に入ろうとすると、杵崎も来た。
駐車場側の入り口は自動ドアではない。
杵崎と同時にドアの取っ手に手を伸ばすと、バチッと音がした。
「いたっ」
と深月はドアから手を離し、杵崎は無言で手を押さえていた。
杵崎は、
「静電気か」
と呟いたあとで、
「相性が悪いからかな」
と付け足す。
何故だ……と思うような結論を残し、先に入っていった杵崎だったが。
何故かドアを開けて待ってくれている。
もしや、後ろに支社長がっ?
と思い、振り返ってみたが、誰もいなかった。
すると、
「お前のために開けてやってんだ、莫迦。
早くしろ」
と杵崎は言ってくる。
「ドアに触ったら、また、バチッて言うかもしれないだろ、帯電女」
と言われ、
「あ、ありがとうございますっ」
と深月は頭を下げて駆け抜けたが、杵崎は後ろをついてくる。
行く方向が同じだからだ。
なんとなく早足になりながら、エレベーターホールに着いた。
すぐにエレベーターは来たが、乗る人間が他におらず、結局、二人きりで乗るはめになる。
まあ、黙ってればすぐ着くか、と思ったのだが、杵崎の方から話しかけてきた。
「支社長はお前を秘書にしようとしているようだが、俺は反対だ」
ええ、私も反対です、と深月が思っていると、
「あれのせいか」
と杵崎は言ってくる。
「……あれ?」
「支社長が祭りの舞がどうとか言っていたが。
そのせいで、最近、支社長はお前とベッタリなのか?」
「いえあの、支社長はまだ舞ってくれるかどうかわからないんですけど――」
と深月が言いかけたとき、
「じゃあ、俺が支社長の代わりに舞ってやろう」
と杵崎が言い出した。
「え」
「俺が代わりに神楽に参加する。
だから、支社長から離れろ」
「杵崎さん……」
と深月は杵崎を見つめる。
なんだ、と見る杵崎に、
「うちの神社、いつもいる巫女は私だけですよ?」
あとは正月と祭りのバイトだけです、と言って、
「巫女さん目当てに言ってるんじゃないっ!」
と怒られた。
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