好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~

菱沼あゆ

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理由がありませんっ

俺が舞うっ!

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 支社長、今日も不自然に総務のカウンターの前を行ったり来たりしてるな、とデスクで仕事をしながら、深月は思っていた。

 いや、ちゃんと仕事で総務前を往復しているようなのだが、陽太の視線が不自然にこちらを向いているので、気になってしょうがない。

 しかも、そんな陽太と自分を獲物を狙うハンターのような目で見つめている人物が居た。

 昨日の『あんたどうせ、支社長の膝に乗って仕事するんでしょ』さんだ。

 隙あらば、総務周辺に来て、深月たちを見張っている。

 そのうち撃たれる……と思いながら、深月は変な緊張感の中で仕事をしていた。

 しかし、このままでは支社長も膝乗りハンターさんも仕事にならないことだし、いっそ、秘書室に行くべきなのか。

 だが、それはそれで、やっぱり膝乗りさんに撃たれそうだしなー。

 深月は備品倉庫に行って電球を取ってくると、こちらを横目に見ながら、また総務の前を通りかかった陽太を、

「支社長」
と呼び止めた。

 陽太がすごい勢いで振り向く。

「支社長、これ、杵崎さんに頼まれてた電球です。
 今からお持ちしますね」

 支社長に電球渡すのも、自分でつけろと言ってるみたいな感じになるから、杵崎の居る支社長秘書室まで持っていってもおかしくあるまい、と思いながら、一緒に歩く。

 陽太は嬉しそうだった。

 ちょっと仔犬のようだ。

 ……支社長を可愛いとか思ってしまった、と思いながら、深月は小声で陽太に言った。

「そうだ。
 杵崎さんが支社長の代わりに舞おうとか言ってましたよ。

 支社長は忙しいからって」

 そう言えと杵崎に言われたのだ。

「俺が忙しいのなら、秘書の杵崎も同じだろう。
 ……っていうか、あそこの巫女はお前だけだが」

 やっぱり、そういうあれだと思いますよね……?
と思いながら、深月は言った。

「杵崎さんにお願いしましょうか。
 支社長は乗り気でないようですし。

 ……何故か杵崎さんは乗り気なようですしね」
と深月が言ったとき、陽太はピタリと足を止めて叫んだ。

「俺が舞うっ!」

 オレガマウ?
と総務の課長が口の中で呟きながら顔を上げ、

 オレガマ ウ?
と総務の人たちが顔を上げ、

「オ レガマウ……?」
と膝乗りハンターがこちらを見た。

 まあ、いきなり、俺が舞うとか職場で言われても、意味が理解できないよな、と苦笑いする深月に、

「ノリさんたちに言っておけ。
 俺が舞う」
と言って、陽太は行ってしまった。

 いや、電球……と思った深月はそのまま帰るのも変なので、秘書室に行って杵崎に電球を渡し、

「支社長が舞うらしいです」
と言って帰る。

 ふと気づいてスマホを確認すると、陽太船長が、敬礼して、
「次回から練習参加しますっ」
と言って、『よろしくお願います』のスタンプも送っていた。

 ……スタンプの支社長はキラキラしてて可愛いな。

 リアルもこのくらい害がなければいいんだが……と思いながら、深月はそっとスマホを引き出しにしまった。



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