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支社長室に神が舞い降りました
新人ではありません
しおりを挟む「お前、秘書室に異動になるぞ」
ある日、支社長室で陽太が言ってきた。
「……なに他人事みたいに言ってるんですか」
と深月は言ったが、
「俺の指示じゃない」
と陽太は言う。
「お前、この間、じいさんを案内したろ」
「え?
ああ、小学生と一緒にご案内した?
子どもたちとは、レクリエーション室でお別れしたんですけど。
私もおじいちゃんも飴とかいただいちゃって、ほっこりでした」
「……あれは、うちのじいさんだ」
「えっ、会長?」
「お前の案内、たいそう子どもにもわかりやすくてよかったと褒めてたぞ」
「まさかそれで秘書に?」
いや、違う、と陽太は言った。
「お前、学校の先生に、この会社のことを褒められて、すごく嬉しそうだったらしい。
会社を愛してくれているのがよく伝わってきた。
新人なのに、偉いなと思ったとジイさんが言っていた」
「……すみません。
私もう新人ではないと思うんですが」
下が入ってこないので、なんとなく新人っぽいが。
「いや、なんか初々しかったんじゃないか?」
初々しいのならいいが、案内や受け答えがたどたどしかったのでは、と深月は不安になる。
「ともかく、英孝ひとりで秘書の仕事を回すのも大変だろうし。
ああいう新人を一から鍛えてみてはどうかと言われたんだ」
いやもう、半端に育っちゃってるんですけど……とは思ったのだが。
この人ならともかく、会長命令では逆らいがたい。
……いや、別に支社長を舐めているわけではないのだが。
「あ、そうだ。
支社長、これをお持ちしました」
クリップを一個、はい、と支社長の手に落とす。
持ってくるものが巨大化していって、杵崎に怒られたので、小さくするようにしたのだが。
今度は、どんどん小さくなっていっていた。
クリップを日にかざして眺めながら、陽太が、
「そのうち、総務に落ちていたチリになるに違いない……」
と呟いていた。
そんなに仕事ができるとも思えない私がこの大抜擢。
支社長狙いの女子社員に嫌がらせを受ける日も近い。
などと考えながら深月が支社長室を出ると、杵崎が待っていた。
無表情に、
「おめでとう」
と手を叩いてくる。
「ついに秘書におさまりやがって」
いや、おさまりたくはなかったのですが……。
「神楽の練習もできないくらいいじめ抜いて――
鍛え抜いてやるからな」
本音がダダ漏れですよ……。
っていうか、私は実質、この人の下で働くと言うことでは?
支社長狙いの女子社員になにかされる以前に、杵崎さんにやられそうだ、と思う。
なんか杵崎さんがシンデレラの継母に見えてきたな。
と何故、母だ、と言われそうなことを思っていた深月は気がついた。
小声で叫ぶ。
「杵崎さんっ」
「腕をつかむなーっ」
と言われたので、離しながら、深月はいつぞや人の気配を感じた廊下の曲がり角を見て言う。
「今、誰かがこっちを見てましたよ」
「お前を物陰から見てるのは、支社長くらいのもんだろ」
と言われ、つい振り向いたが、支社長室の扉は閉まっていた。
「いや、杵崎さんを見ていたのかもしれませんよ?
あるいは、産業スパイかも……」
「産業スパイだったら、捕まえとけ」
とつれなく言って、杵崎は、さっさと秘書室に戻っていってしまった。
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