好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~

菱沼あゆ

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理由が必要か?

一人暮らしの経験はないのか

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「お前は料理が苦手なようだが。
 一人暮らしの経験はないのか」

 潮風に吹かれながらの心地よい朝食の席で、深月は唐突に陽太にそう言われた。

 底が少し焦げているが、白身が陶器のようにつるんとして美しい目玉焼きを食べながら、うっ、とつまる。

 確かに。
 今日も、皿を並べたり、お湯を沸かしたり、パンを焼いたりしかしていない。

「……ないですね。
 大学も家から通っていたので。

 寂しくないし、家事もしてもらえるし、楽でよかったんですが。

 でもちょっと、一人暮らししてみたいかなって思う時期は、やっぱりありました」
と深月が言うと、陽太は何故か警戒したような顔で、ほほう、と言う。

「好きな男でもできたからとか?」

 そう窺うようにこちらを見ながら陽太は訊いてくるが。

 いや、なんで一人暮らししたいで、好きな男ができたになるんだ?
と深月は思っていた。

 恋愛経験もなければ、男心もわからないので、陽太の警戒の意味がわからなかったのだ。

「いや、実は、友だちが隣の県で、一人暮らししてたんですけどね。

 アパートの斜め前に全国チェーンのお弁当屋さんがあったらしいんですよ。

 そこのチキン南蛮丼が、もう、ともかく絶品だったらしいので、私も食べてみたいなと思って行ってみたんです。

 うちの近所にもあったんで。

 でも、そんなに美味しくなかったんですよ~。

 その友だちは、チェーン店でもどうやら、店ごとに味が違うみたいだって言ってました」

「まあ、同じカップ麺でも地域によって、味変えてあるもんな」

「でも、隣の県なんで、単に店の調理の仕方で味が違うだけなんじゃないかと思うんですよ。

 ってことは、その店に行かない限り、その絶品のチキン南蛮丼は味わえないってことですよね?

 そのときばかりは、私も一人暮らしして、そのチキン南蛮丼を食べてみたいなって思いましたよ~」

「待て」
と陽太に言われる。

「それは、そのアパート近くの店のチキン南蛮丼を食べてみたい話で、アパートで一人暮らししたい話じゃないだろうが」

 遊びに行って、食べてこい、と言われる。

「そして、案の定、一人暮らししても、弁当屋で済ませて、自分で作る気はないんだな……」
と再び、半眼の目で見られ、

「あっ、朝食作っていただいたので、私が片付けますねー」
と言って、深月は慌ててトレーに皿を重ねて逃げた。



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