好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~

菱沼あゆ

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理由が必要か?

ヘタレている暇はない

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 よく寝たな、と深月は燦々と日の差し込む船のベッドでぼんやりしていた。

 目の前には陽太の顔があり、その手が何故か深月の背中に触れている。

 どうしようかなーと思って、そのままじっとしていた。

 朝の光を受けた陽太の顔を眺める。

 ……寝顔まで美しいな。

 っていうか、ちょっと可愛い?

と職場では絶対に思わないようなことを思いながら、身を乗り出して陽太の顔を見かけたとき。

 気配を感じてか、いきなり、陽太が逃げるように反対側を向いたので、深月もまた、びくっとして、飛びすさった。

 の、覗き込んですみませんっ、と思いながら。

 そして、背中に触れていた陽太の手が離れたことを寂しく思っている自分に気づく。

 そういえば、ここで支社長に抱き締められて目覚めた朝、不思議な安心感があったな。

 そう深月は思い出す。

 子どもの頃、お母さんと一緒にお風呂に入ってたとき以来だからかもしれない。

 あんな風に直接人肌に触れるようにして、抱き締められたのは――。

 そうっと陽太の顔を覗き込もうとしたとき、いきなり腕を引っ張られた。

 うわっ、と体勢を崩して、深月は陽太の上に落ちる。

 深月の両腕をつかんだまま、陽太は、
「おはよう」
と言ってくる。

 そのまま抱き寄せられた。

 今日はどちらも服を着ているので、この間のような気まずさはないが。

 落ち着くけど、落ち着かないというか。

 落ち着かないけど、落ち着くというか。

 やはり、妙な感じだった。

 深月を抱き寄せ、自分の上に寝かせた陽太は、ぽんぽん、と深月の頭を叩いたあと、ちょっとだけそのまま、じっとしていた。

「……うん、このくらいはできるぞ」
という謎の言葉を残し、陽太は起き上がる。

「よし、朝食の用意をするか」
と気持ちを切り替えるように言う陽太に、深月は、

「あっ、手伝いますっ」
と慌てて言いながら、ベッドから下りたが。

「……手伝います、か。
 お前が主導というパターンはないんだな」
と陽太は半眼の目でこちらを見ながら、呟いていた。

 いや……、家事苦手なんで。

 ほんとすみません……。
 



 向こうから来る女が楽というのはわかる気がする。

 他のことは深月がやってくれているので、卵を美しく焼くことに専念しながらも、陽太は頭の片隅でそんなことを考えていた。

 今、猛烈に、深月の方からぐいぐい来て欲しい。

 昔は、男の方から強引に迫るべきだと思っていたが。

 そんなこと軽く考えていたのは、本気で誰かを好きになったことがなかった証拠だと今ならわかる。

 強引に出て、深月に泣かれでもしたらどうしようと思うと、つい、ビクビクしてしまう。

 なにかきっかけが欲しいなと思っていた。

 少しは自信を持って、深月に迫れるきっかけが――。

 気の迷いでもいいから、
「支社長っ、好きですっ」
とかなんとか言わないもんだろうか、とデッキでテーブルに白い皿を並べている深月を見つめる。

 ふわりと膝より少し長めのスカートが風に舞い、なんだかパンのCMみたいだな、と陽太は思った。

 CMの朝食のシーンみたいに無駄に爽やかだ。

 まあ、深月の性格から言って、好きですなんて言ってきそうにはないけどな。

 だが、あの夜、自分となにかあったと思い込んでいるからというのもあるんだろうが。

 本当に嫌なら、こんなに一緒には居てくれない気がするんだが。

 実は、こいつ俺のことが好きなんじゃ……?
と思うときがなきにしもあらずなのだが。

 深月の言動が不思議すぎて、いまいち、うぬぼれられない。

 だが、ヘタレている暇はない。

 敵は多いからな、と深月を見つめている間に、卵が焦げた。

「大丈夫。
 美味しいですよ」
と慰めてくれる深月に、

「気を使ってくれてありがとう。
 だが、その焦げは、お前への愛情の現れだ」
と言って、小首を傾げられた。


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