好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~

菱沼あゆ

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襲われたのには理由があります

愛は永遠じゃないと思う

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 で、結局、なんだかんだで陽太は外に押し出され、清春が蔵の戸を閉めた。

「おいおい、なんの騒ぎだ」
と今来た誰かが訊いている。

「大丈夫だ。
 たぶん、まだ中盤だ」

 映画か……。

 いやいや、さっさと終わらせて欲しいんですけどっ。

 逃げられないよう、清春に後ろから抱きしめられたまま深月は聞いていた。

「なんだ、清春。
 深月を連れて蔵に閉じこもったのか」
とそのおじさんは笑ったあとで、

天岩戸あまのいわとだな。
 全裸で踊れ! 船長っ」
と言う。

 きゃーっ、と女子たちが歓声を上げた。

「いや、俺が全裸で踊って清春が出てくるわけないじゃないですか」
と陽太が言うのが聞こえた。

 そのあと陽太はしゃべらなくなり、おじさんたちが酒を呑んでいる騒ぎだけが聞こえてくる。

 ……あの、忘れられてませんか、私たち、と深月は思っていたが。

 忘れられてはいなかった。

「深月ーっ。
 皿ーっ」
とおばちゃんが人質の深月に向かって叫ぶ。

 無理です……、今。

 だが、おばちゃんにとって、今、もっとも大事なことは、急いで洗うべき器を深月が持ってくることのようだった。

 うちの親もああいうとこあるよなーと思ったとき、なにかすごい音が聞こえてきた。

 ガガガガ……と戦車がやってくるような重低音が近づいてくる。

「清春ーっ」
と外から陽太の声がした。

「今からその蔵を重機で打ち壊すっ!」

 ひーっ。
 なに言ってんだっ、この人っ。

「俺がその蔵、中身ごと買い取った!
 ちょうど耐震が怪しいから、建て直したかったと万蔵さんも言っておられるっ」

「ちょ、ちょっと、あのっ。
 私も中に居るんですけどっ!」
と叫び返してみたが、

「清春のものになるくらいなら、そこではかなく散ってくれっ」
といわれる。

 こんな人に神は舞い降りないっ! と深月は思っていた。

「次の蔵は白壁がええのう」
と言う呑気な万蔵の声も聞こえてくる。

「清ちゃん、離してっ。
 殺されるっ。

 あいつらにっ!」

 重機が近づいてくる音がする。

 動かせたのか、あんなものまでっ、と深月は清春を引きずるようにして、格子のはまった窓まで行き、外を見た。

 最近のおしゃれなパステルカラーの小型のショベルカーに乗って、陽太が近づいてくる。

「清ちゃんっ」

「深月、皿っ」
と焦る声が交錯する中、

「深月」
と静かに呼びかけてくる清春ひとりだけが焦ってはいなかった。

 清春は、深月の手を取り言ってくる。

「俺は愛は永遠じゃないと思う」

「はい?」

「お前はいずれ、船長と別れるだろう。
 そのときは俺のところに来い。

 約束だぞ」

「えー……、はいはいっ」
と深月は急いで、ものすごく適当な返事をした。

 このままでは支社長に殺されるっ、と迫る重機の音に何度も振り返りながら。

 だが、そのとき、蔵の入り口の扉がいきなり割れた。

 重機はまだ来ていないのに。

 割られた扉から斧を手にした杵崎が顔を覗かせる。

「一宮っ、大丈夫かっ」

「杵崎さんっ」

「素敵ーっ。
 英ちゃんーっ」

 きゃーと万理たちが騒いでいる。

「ありがとうっ。
 深月の魔の手から清春を守ってくれてっ」

 だから逆っ、と思う深月は杵崎に腕を引っ張られる。

「あ、ありがとうございます、杵崎さ……」

 ん、という前に、杵崎は手を握ってきた。

「一宮、俺は愛は永遠じゃないと思う」

 何処かで聞いたぞ、このセリフ。

「お前はいずれ、陽太と別れるだろう。
 そのときは俺のところに来い。

 約束だぞ」

 あー、はいはい、とまた深月は適当な返事をしてしまった。
 
 約束だけだが、重婚罪だ。

 そう思ったとき、
「深月っ」
と陽太が重機から降り、やってきた。

「よかった。
 深月っ、大丈夫かっ」
と抱きついてくるが。

 いや……、私、今、貴方に殺されかけたんですけどね、と深月は思っていた。

「よし、無事に姫を鬼から取り返したぞっ」
と満面の笑みの陽太に、

 いや、貴方が鬼のようでしたよ……と深月は思う。

 重機で突っ込んでくる陽太の顔は鬼神のようだった。

 本当にやられると思った。

 まあ、だからこそ、清春も手を放してくれたのだろうが。

 本番もあの勢いで鬼やったら完璧だな、と思いながら、今、先祖伝来の蔵と未来の花嫁を打ち壊そうとしたショベルカーを見る。

 そんな深月の後ろで、清春と杵崎が、

「約束だぞ」
と言っていた。

 ひい、と思ったとき、突風が吹いた。

 ちょっと遅めの春一番が。

 少し木の根が盛り上がっているところに乗り上げて止めていたショベルカーが風に煽られて傾く。

「あーっ」
と全員が叫んだ。

 ガツッと音がして、振り上げられていたショベルが神楽殿の屋根に突っ込んだ。

 簡易の神楽殿の屋根にぽっかり穴が空く。

「……す、すみません」
と陽太は謝ったが、

「いや、俺のせいだ」
と清春が言った。

「俺が祭りの前に、清らかでなければならない深月に手を触れようとしたから、神罰がくだったんだ」

 二人が反省の弁を述べる中、
「あー、まあ、なんとかなるだろうー」
と重機を戻しながら、おじさんたちは屋根を見て言う。

「どうせ、簡易の神楽殿だから、ちょっと屋根を……」
と大工の美南みなみさんが言いかけたが、陽太が、

「あの、すみません」
とその話を止めた。

「俺、此処の昔の文献読んだんです。

 ……ちょっと考えがあるんですけど。

 いいですか?」

 そうみんなに言う。


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