好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~

菱沼あゆ

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襲われたのには理由があります

宵宮の舞

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 宵宮当日。

 会社のみんなも手伝ってくれ、祭りが始まった。

 浜に点々と篝火かがりびが灯されている。

 陽太の提案により、古い決まりごとを省略することなく、神社とすぐ側の浜とで神事が行われたあと。

 篝火が参道から海まで伸びていって、そこに止まっていた船に灯りが灯る。

 まず、中央に横付けしている陽太の船に。

 そして、両脇に停泊している漁船に灯りが入った。

 幻想的な光景だな、と潮風に吹かれながら、船の上で深月は思っていた。

 いつも食事をするデッキに神楽の舞台が設置されている。

 海では神事の一部だけをやる予定だったのだが。

 今年は神楽も海でやることになった。

 陽太も文献で読んだと言っていたが、昔は神楽を含む祭事のすべてを海でやっていたらしいのだ。

 海の神様を祀っているからだろう。

 祭り用の巫女装束を着た深月は社殿を向いて、舞台の上で正座していた。

 太鼓の音とともに両脇に灯りがともり、深月は立ち上がる。

 ゆっくりと手にしていた扇を夜空に向かい、掲げた。

 そのままゆっくりと旋回する。

 神楽のはじめに舞われるこの巫女舞で、巫女は回転しながら、神がかり、神を呼ぶのだ。

 深月はいつも頭を真っ白にして舞うのだが。

 この船が舞台のせいか。

 今日は陽太と出会ってからのことが次々と思い浮かぶ。

「あんたの彼氏はすごいのう」
とおじさんたちが言っていた。

 わずか二日で一気に、此処まで舞台装置を整えたからか。

 うん……。

 支社長はやっぱりすごいな。

 とんでもないこともするけど。

 ……祭りの前に殺されかけたし。

 でも、あの行動力は見習いたい、と深月は思っていた。

 繁栄と豊穣を願う神聖な祭りだ。

 私情はまじえまいと思うのに、今日は何故か陽太の面影が頭から消えなかった。

 失敗したかなーと思ったのだが、舞台を降りたあと、みんなが、
「どうしたっ。
 よかったぞ、深月っ」
と褒めてくれる。

 どうしたっ、ってところが気になりますが……と思いながらも、
「……ありがとうございます」
と深月が言ったとき、万理まで駆けつけ、褒めてくれた。

「どうしたの、深月。
 よかったわよ、いつもよりっ」

 邪念だらけだったと自分では思っていたのに不思議だった。

 深月が光がもれないよう、灯りを消している船室に入ると、鬼の装束を身につけた陽太が居た。

「船には人を上げないって言ってたのに、よかったんですか?」
と訊くと、

「うん。
 いいんだ。

 ……みんな仲間だから」
と陽太は言った。

 深月は月光の中の陽太を見つめ、ちょっとだけ背伸びをして、その頬にキスをした。

 陽太が驚いた顔をする。

「私の舞は終わったから、もう穢れていいんです。

 でも――

 きっとこれって穢れじゃないですよね。

 私、今日は、ずっと支社長のことを考えて舞ってました。

 でも、みんな、いつもよりよかったって褒めてくれたんです。

 誰かを大切に思うこと。

 その人とこれから先、共に生きていきたいと願うこと。

 それはこの祭りに託した人々の願いと同じだから。

 だから、きっと、貴方のことを思って舞っても、それは邪念ではないし。

 貴方に触れても、穢れではないんですよね、きっと」

 いついつまでも、大切な人たちと、

   末長く幸せに暮らしていけますように――。

 その願いこそが人々が祀りを続けていく原動力となっているものだから。

 陽太の手が深月の腕に触れた。

 そっと口づける。

 離れた陽太に深月は言った。

「口紅、ついちゃいましたよ……」

 だが、陽太の唇を拭おうとした深月の手首を陽太がつかんで止める。

「大丈夫だ。
 面をかぶるから」

 そう言った陽太の声にかぶせるように声がした。

「なにも大丈夫じゃない。
 とっとと拭いて出てこいっ」

 清春が船室の入り口に立っている。

「……まあ、祀りごとの最中だ。
 殺生はやめておくが……」
と呟き、行ってしまった。

 ひい、と思いながらも外に出て、ちょうど舞っている杵崎を二人で眺める。

 面をつけていない若い男たちが舞っているのだが。

 以前、おじさんたちが言っていたように、杵崎はギリギリで練習を始めたのに、本当に筋がいい。

 他の人たちと並んで舞っていても、まったく見劣りがしなかった。

 神楽は最初にひとりの舞で始まり、徐々に人数が増えていくことが多いが。

 此処の神楽も同じで、ひとりで舞った深月から、三人で舞う杵崎たちの舞へと代わり、次の舞は四人になった。

 杵崎たちのあとに、面をつけ、舞い始めた消防士の重富しげとみを見ながら、陽太が言う。

「いいもんだな」

「え?」

「子どもが本気の父親を見て育つって、いいよなと思って」

 陽太の視線の先には、浜で見ている重富の家族が居た。

 今はまだ赤ちゃんだけど。

 重い衣装で誰よりも激しく舞う父親の姿を焼き付けておいて欲しいなと深月も思った。

 いつの間にか陽太とふたり、手をつないでいた。

「ほら、行け、鬼。
 自分の船を踏み壊すぐらい揺らしてこい」

 前に居た清春が振り返り、陽太に言う。



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