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誰だって、好きになるには理由があります
お前の神様が俺を選んだんだよ
しおりを挟む翌日、怒涛の忙しさで祭りは終わり、夜が来た。
祭りで神様に捧げた酒などを頂く、関係者による直会が社殿横の広間であって、お開きになる。
だが、まだみんな、そこ此処で片付けようとした座布団をつかんだまま、話し込んでいた。
祭りの熱気がまだ残っていて、去りがたいのだろう。
普通の祭りは来年もあるけど。
こんな大きな祭りは十二年先だしな。
かなり酔っている万理が、
「そのときには、きっと、私の子が舞うわよ~っ」
と息巻いている。
そうやって祭りって、子々孫々受け継がれていくんだろうな、と深月は思った。
いつか、此処に居るみんなが居なくなっても、その先も。
祭りに込めた私たちの願いや思い出を誰かが繋げていってくれるのだろう。
そう実感した深月は、
「じゃ、お先に」
とようやく帰ろうとした。
が――。
「待て」
と陽太に腕をつかまれる。
「……終わったぞ。
お前が清らかでなければならない期間は」
なんだろう。
この突然、少女期が終わるみたいな宣言は。
いや、少女という年齢ではないが……。
「祭りのためにお前が子どもでなければならない期間はもう終わった。
これからは大人の時間だ。
船で送ろう」
いや、家はすぐそこなんですが……。
船が着いてる場所の方が遠いんですけど、と思っていたが、
「送ろう」
と陽太は繰り返す。
杵崎はおじさんたちと話していて、清春は居なかった。
「大丈夫だ、もう穢れても。
十二年後には、お前の役は万理さんの子がやると万理さんも言っている。
っていうか、十二年後、幾ら童顔でも、もう子どもの役は無理だろ」
どすっ、と来るようなことを言われながら、深月は引きずられていった。
陽太は船を近くの漁港ではなく、少し離れたマリーナにとめていた。
そこまでタクシーで移動する。
「あんまり近いと誰かが邪魔しに乗り込んでくるかもしれないからな」
と陽太は言う。
「忍者は空気を読むから来ないだろうが」
あの人、イカ焼きをお土産に何処かに帰ってっちゃいましたしね……。
もう遅い時間なので、陸地の灯りは少なくなっていた。
港に停泊したままの船のデッキで風に吹かれていると、
「呑むか?」
と陽太がグラスを持ってきた。
「もう結構呑んでますよ。
っていうか、最近、お酒呑むの、身構えちゃうんですよね。
酒の不始末さえなければ、こんなことになってないわけですしね」
とグラスを受け取りながら言うと、
「じゃあ、呑んだくれてよかったって話だろ。
そういえば、あのとき、振る舞われたのも神様の酒だったし。
きっと、お前の神様が俺を選んだんだよ」
と陽太は都合のいい解釈をする。
「でも、今日のお前は本当に神がかりしてるみたいに神聖な感じがして、綺麗だったぞ。
杵崎なんか、近寄りがたく感じたみたいだ。
俺も一瞬、こんな女に手を出してはご無礼かと思ったんだが。
……まあ、一瞬だったな」
と陽太は言う。
「終わって、俺の許に来たお前を見たとき、こいつはもう、神様の許を離れて俺の許にやってきたんだなと思ったっていうか。
なんか普段通りだったから……」
そんな残念なことを陽太は言った。
「でもあのとき、こいつは、神様が俺につかわしてくださった女だとあのとき思った。
……昔は恋は人を詩人にするとか、そんな莫迦みたいなことあるかと思ってたんだが。
俺は今、結構莫迦なこと言ってるな。
たいして呑んでないのに」
と陽太は少し照れて言う。
深月もちょっと赤くなって俯いた。
すると、視界に陽太のスーツのポケットから少しはみ出していたイヤフォンが入る。
陽太は今日も協賛会社の支社長として挨拶したので、スーツ姿だった。
「そのプレーヤー、なにが入ってるんですか?
会社でもよく聴かれてましたけど」
と深月が訊くと、陽太はそのイヤフォンの巻きつけられた音楽プレーヤーをポケットから出してきた。
「神楽の曲だ。
いつでも何処でもイメトレできるように入れてたんだ。
……もう聴かなくていいと思うと寂しいな」
とその小さなプレーヤーを見ながら言うので、
「でも、まだ来年もありますよ。
大祭の神楽よりは小規模ですけど、普段から人数足らないし。
逃げられると思ったら大間違いですよ」
と言ってやると、……そうだな、とちょっと嬉しそうに陽太は笑う。
そんな顔は可愛いな、と思っていると、
「聴くか?」
と陽太は深月の耳にイヤフォンを片方突っ込んできた。
二人であまり光のない陸地を見ながら聴く。
昨日の神楽に想いを馳せながら。
「こういう曲って、なんか荘厳な気持ちになるよな」
「……そうですね」
「じゃあ、そろそろ、ふたりの初めての夜を迎えるか」
と陽太がこちらを見る。
「今、荘厳な気持ちになったんですよね……?」
「そうだ。
荘厳に未来に向けて踏み出そう」
と言われ、深月は腕をつかまれた。
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