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呑んだくれてたら、異世界にたどり着いてました
人って、暗くなると、はしゃいでしまうの、何故なんでしょうね
しおりを挟む本当に全部の火を消したわけではないが、消そうと二人で足掻いているうちに、時間潰しになったらしく、あっという間にパーティは終わったように感じた。
最後の灯りが消え、会場が暗くなると、楽しげに会場がざわつく。
いつの間にか、厚いカーテンが閉めてあって、月明かりもほとんど入って来ない。
まだ壁際に居た王子に、いや、そういえば、貴方、主役なんじゃないんですか。
ずっと此処に居ましたが、と思っていると、
「……終わったな」
とほっとしたように王子は呟いた。
やりたくなかったのなら、王子の権限で止められないのかと思ったが。
上の人になるほど、自由がきかなくなるのは、どの世界のどんな時代でも同じなのだろう。
「人って、暗くなると、はしゃいでしまうの、何故なんでしょうね。
人がケモノに近かった頃には、闇を恐れていたはずなのに」
と未悠が呟くと、
「だから、ケモノに戻った気がしていいんじゃないか?」
解放されて、本能だけで生きられる気がするから、と王子は言う。
「誰も見てないし。
火がつくまではなにしてもいいんだ」
「こんな暗がりでなにが出来るんですか」
触って、なにかを当てるゲームとか? としょうもないことを考えていると、
「……誰も見てないから、側に居る人にキスとかしてもいいんだぞ」
と言ってくる。
「へー」
暗いと相手を間違えたりしないだろうか? と思っている間に、段々目が慣れてきて、わずかに差し込む光で会場が見渡せるようになってきた。
なるほど……。
なにかしている人たちも居る……と思ったとき、ぽっと会場の中央に灯りがついた。
王子を先導してきた偉そげな使用人が大きな燭台に火をつけたようだった。
わざと長く暗闇の時間をとったあとで、ついたその灯りが、終わりの合図だったようだ。
みな、周囲の人々や王子に挨拶しながら、扉から出て行く。
「やあ、終わりましたね」
よかったよかった、と未悠が笑うと、王子は通りかかる人たちに挨拶を返しながら、
「……お前は本当になにをしに来たのだ」
と何故か呟いている。
みんながチラチラとこちらを見ていく。
おお、王子の側に居るからか、と気づいた未悠は、
「それでは私も失礼致します」
と先程のアデリナを真似て優雅にお辞儀をし、その場を去った。
まだ椅子に座っていたシリオの許に戻ったとき、未悠は思い出したように、あ、と声を上げた。
「すみません。
王子刺すの忘れてました」
「……今、此処で刺さなくていい、莫迦者。
すぐに捕らえられるだろうが」
いや、よく考えたら、何処で刺してもすぐに捕らえられそうですよねー。
捕まったら、シリオ様に頼まれたとバラしてやる、と思いながら、
「ようやく終わりましたねー」
と言うと、
「そうだな。
まあ、明日も頑張れよ」
とシリオは立ち上がりながら言ってくる。
「え? 明日?」
と言うと、
「お前、本当に人の話を聞いてないな」
とシリオは呆れたように言ってくる。
「今日、お前たち、王子に挨拶しなかったろ?
舞踏会は三日三晩続くんだ。
最後の晩に、娘たちは王子の前に出て挨拶し、気に入ったものが居れば、王子がそのとき名を呼んで選ぶんだ」
えーっ? 三日ーっ!?
「……あのー、もう不参加ってことで、帰っていいですか?」
出来るわけないだろう、と言ったあとで、シリオは、
「いや、出来なくもないか。
此処に来てるのは、娘たちの希望だ。
特に王子が望まぬ娘なら、もう良い相手が見つかったからと途中リタイアもありなんだ」
と言ってくる。
「じゃあ、誰か見つかったってことで」
「……見つけたのか?」
お前、なんだかんだで王子と一番長く居たようだが、と言うシリオに、
「いえ、おりませんが、シリオ様」
とその名を呼ぶと、意図を読み取ったシリオは、すぐさま、
「俺は嫌だぞ」
と言ってくる。
「本当に嫁に貰えとか、囲えとか言ってないじゃないですか。
そういうフリをして、此処から連れ出してくださいと言ってるんです」
と訴えて、
「待て。
お前、此処になにしに来た?」
と言われてしまった。
……そうだ。
元の世界に帰る切っ掛けを探しに王子に会いに来たんだった、とようやく思い出す。
「すみません。
パーティのあまりのつまらなさにおのれを見失いそうになってました」
「お前は出会ったときから、なにもかも見失ってるぞ」
そのとき、
「シリオ様」
と後ろから声がし、シリオは振り返ると、
「今、行く」
と部下らしき男に返事をしていた。
「いいから、部屋に戻って休め。
これが鍵だ。
しっかりかけとけよ。
お前は今日、王子と一番長く居たから、そんな娘に手を出そうとする無礼な奴も居ないだろうが」
ひとつ、不安な要素があるからな、とシリオは言う。
どんな要素だ、と思ったのだが、
「シリオ様!」
とまた呼ばれ、
「じゃあ、しっかりやれよ」
と言ってシリオは行ってしまった。
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