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呑んだくれてたら、異世界にたどり着いてました
どうだ? やるか?
しおりを挟む「あら、未悠様」
と朝も会った娘が話しかけてきた。
「楽しみですわね、アドルフ様と踊るの。
いい土産話が出来ますわ。
ほら、うちの両親も名誉なことだと、楽しみにしてますの」
とそういえば、身を乗り出すようにして、我が娘の番を待っているらしい夫婦が見えた。
貴族なので、もちろん、取り乱すようなことはなく、楚々としているのだが、その顔つきは、運動会で娘がリレーの選手に選ばれたので、新しいビデオカメラを買っちゃったよ、お父さんっ、という感じだった。
微笑ましいな、と思って笑ってしまう。
きっと、この日、王子と花嫁候補として踊ったことは、彼女が別の男の許に嫁いでも、懐かしい思い出話として、あの家族の中に残っていくのだろう。
アドルフ王子は嫌がるけど。
そう思うと、この行事も悪くないのかな、と思ってしまう。
そんなことを考えながら、ちょっと笑って、今踊っている娘を見ていると、アドルフがこちらに気がつき、なんなんだ……という顔をした。
いいから踊れ、としっしっ、と払いそうになったが、王子だった。
不敬の罪で首など斬られてはかなわないので、そこは、ぐっと堪えた。
「未悠様。
私、とても楽しかったです」
と小柄なその娘が自分を見上げ、言ってくる。
「また皆様とお会いしたいです。
王宮でじゃなくてもいいですから。
あ、王宮だとより一層楽しいですけど」
「そうだね。
また会いたいね」
この子たちともお別れか、と少し寂しく思っていると、娘は微笑み、
「そういう会を催されるときは、ぜひ、私も呼んでくださいね」
と言ってきた。
……私が会を催す機会などないと思うんだけど、と思ったが、自分の番になった娘は、不思議な笑みを残し、行ってしまった。
間近に見るアドルフに緊張しながらも、ぎこちないが、可愛らしく踊っていた。
「さあ、未悠様。
最後です」
とその娘のあと、係りの者に言われた。
そういえば、これって、エントリー順なのか?
私が最後のようだが、と思いながら、王子の許に行く。
曲はそう長くはない。
踊り出してすぐ、アドルフは言ってきた。
「やれやれ。
お前でやっと終わりだ」
「……お疲れ様です」
と出所してきたアニキを迎えるような口調で言ってしまう。
だが、王子は連続して踊っているので、大変なのだろうな、とは思う。
「未悠」
耳許で王子が囁いてきた。
「これ以上、こんなことを繰り返すのはめんどくさいから、お前が妃になれ」
「……嫌です」
お前、なに言ってんだーっ! とシリオが聞いていたら、叫ぶところだろう。
だが、この顔がいけないのだ、この顔が。
私をフッたその顔で、妃になれとか言われても。
いや、この人がフッたわけではないが。
理性が感情を抑えつけられない。
反射的に断ってしまっていた。
だいたい、私が妃になったら、貴方、刺されて死にますよ、と思いながら、踊り終える。
そのあとは、いつものように、あちこちでみな、歓談し始めた。
先程の娘は両親と楽しげに話している。
こちらに気づいて手を振り、両親に紹介してくれているようだった。
軽くお辞儀をして、シリオのところに戻ろうとしたが、居ない。
さっきのグラスは、と思っていると、誰かが新しい酒の入ったグラスを差し出してきた。
振り向くと、アドルフだった。
「未悠。
賭けをしようじゃないか」
「賭け?」
アドルフはカードを出してくる。
「私が勝ったら、お前、私の妃になれ」
「負けたら……?」
どうも負けたときの想定はない気がしたが、突っ込んで訊くと、
「報奨金をやって、お前をこの城から放逐してやろう」
と言い出した。
いや、放逐って、なにか悪いことしたみたいになってますけど……と思う未悠に、
「どうだ?
やるか?」
とカードを手に訊くアドルフが訊いてくる。
「……いいですよ」
まあ、いいか。
勝てばいいんだ。
王子、弱いし。
よしっ。
お世話になったマスターたちに、手土産買って帰るぞっ、と未悠は勝つ気満々だった。
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