28 / 127
悪魔の城に行きました
悪魔の棲家
しおりを挟むあっさり主人を変えた実直な男は、未悠について来た。
いや、本人は王子を裏切ったつもりもないのかもしれないな、と未悠は思う。
アドルフは彼に、
「未悠についていろ」
と言っただけだし、
「未悠を見張っていろ」
と言っただけだ。
そういえば、と止めろとは言わなかったな、と未悠は思う。
ヤンと一緒に未悠は、あの垣根の切れ目を抜ける。
まさか、叱られてすぐにやるとは思っていなかったようで、まだ塞がれてはいなかったからだ。
甘いな、王子、と未悠は思っていた。
社長なら、すぐさま塞いでいるところだが……。
同じような顔でも、やはり、別人なんだな、と改めて思った。
二人は垣根を抜け、草原に出た。
そのすぐ向こうにあの森があった。
深く茂った森の向こうに、時計塔の尖塔が見えている。
「未悠様、塔に近づいて大丈夫ですか?
若く美しい女性がこの塔に近づくと妊娠するという噂があるのですが」
と言いにくそうにヤンは言ってくる。
美しいって、伝説の中には入っていなかったような。
ヤンの妄想か、願望か、イメージか、と思いながら、未悠は言った。
「そうですね。
確かに、我々だけでは危ないかもしれません。
ヤン、シリオ様をそっと呼んできてくださいますか?
アドルフ王子に見つからないように。
私は此処で待っています」
そう言うと、
「はい。
では、これを」
とヤンは自らの腰に差していた剣を渡してくれる。
これ、本物なのだろうかな?
ガンビオのは飾りだったけど、と思いながらも、ヤンを安心させるために受け取った。
剣はずっしりとしていて、重さは結構あるようだった。
「森の中は危ないので、これを持って、じっとしていてください」
「わかったわ」
と未悠は頷く。
ヤンは、急いで行って参ります、と走って城へと戻っていった。
その後ろ姿を見ながら、まずいな、結構足が速いようだぞ、と未悠は思った。
早く行って来なければ、と尖塔を見上げ、森へと向かい、歩いていった。
シリオ様、シリオ様……。
何処にいらっしゃるだろう。
以前は、なにをされているのか、外をフラフラされていることが多かったが、未悠様が城に来られてからは大体、城の中に入るのに。
そう思いながら、ヤンは城の中で、そっとシリオを探す。
あまり人に知られてはまずい感じだったな、と思ったからだ。
未悠様からの秘密の任務、と思っただけで、ドキドキしてくる。
それで油断したわけでもないが、ちょうど階段を下りてきたアドルフ王子と出くわしてしまった。
さっと頭を下げると、
「お前か。
未悠はどうした」
と訊かれる。
「は。
お疲れになったご様子で、お部屋で休んでいらっしゃいます。
冷たい飲み物をご所望されまして」
取りに離れただけだと誤魔化そうとする。
「冷たい飲み物?
酒じゃなくてか」
とアドルフは胡散臭そうに訊き返してきた。
未悠が聞いていたら、いや、さすがに昼間からは呑みませんよ、というところだろうが。
「あの、未悠様をおひとりにしておりますので、失礼します」
と厨房に行くフリをし、通り過ぎようとすると、
「待て」
とアドルフが言ってきた。
「そんなこと、お前が誰かに命じればいいことだろう。
それと、お前――
剣をどうした?」
冷ややかにこちらを見て、アドルフは言ってくる。
ひーっ、とヤンは恐怖のあまり総毛立つ。
深い森だな、と未悠は辺りを見回す。
方向感覚が怪しくなりそうだ。
まあ、最初から方向音痴なんで関係ないけど、と思いながら、先程見た尖塔の方に向かい、真っ直ぐに進んでいく。
前から目をそらすと、行く先がわからなくなりそうだ、と思いながら。
そのとき、ふと、左側を明るく感じた。
木々の向こうに、森が切れている場所があるようだ。
もしかして、あのとき王子と出会った草原じゃ、と思ったが、そのとき、真正面にも薄暗いが、木々の途絶えている場所があるのに気がついた。
塔のようなものが一部見える。
未悠は迷って、塔の方へと進んだ。
その選択が正しかったのかはわからないが――。
いや、間違っていたかな、と塔の前に出て、すぐに思った。
足許に穴が空いていて、落下したからだ。
落とし穴っ? と思ったが、そうではないようだった。
落ちた場所には、ふかふかのマットがあった。
そして、周りには割れて落ちたらしい古い木の蓋のようなものが散乱している。
塔の周りに入り口が見えなかったけど。
もしや、この地下へのマンホールみたいなのが入り口だったのか?
だが、蓋が木だったので、未悠の体重で割れて落ちてしまったらしい。
失礼な、私が重いと言うのか、と割れた木の板に向かい、文句をたれる。
まあ、最近、舞踏会続きで、美味しいものの食べ過ぎだが、と思いながら、未悠は立ち上がった。
膝を板の破片で切ったらしく、少し血が出ている。
いたた……と思いながら見ると、狭い洞穴の先に木のドアがあった。
建て付けが悪かったが、特に鍵はかかっておらず、引っかかる箇所をヤンの剣で突くとあっさり開いた。
目の前に、城のものと似ている石の階段が現れた。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?
エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。
文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。
そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。
もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。
「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」
......って言われましても、ねぇ?
レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。
お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。
気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!
しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?
恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!?
※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる