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お妃様に会いに行きます

酒場の娘と聞いていたが……

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 王妃が滞在しているのは、アドルフが住んでいる城より小振りな白いお城だった。

 王族の人間がゆっくりしたいときに使う、別荘のようなものらしい。

 お城の周りには堀があり、跳ね橋があった。

 これはこれで守りが堅そうだ。

 今、王妃が居るように、なにかあったときに、女性たちを避難させておく場所なのかもしれないと思った。

 王室の紋章の入った馬車は止められることなく橋を通る。

 涼やかな水の気配が馬車に乗っていても伝わってきた。

 しかし、姑さんか、と未悠はまだ見ぬ王妃はどんな人なのだろうな、といろいろと思い浮かべてみていた。

 本当に結婚するかどうかもわからないので、本当に姑になるかどうかもわからない。

 だから、姑との初対面としては、少し気楽なような気もしていた。




「初めまして、未悠と申します」

 アドルフに連れられ現れた娘が、自分の前で優雅にお辞儀をする。

 ユーリアは嫁となる、未悠という娘を観察していた。

 酒場の娘と聞いていたが、品があるな、と思う。

 シリオが見立てたとかいうドレスの雰囲気は柔らかく、美しくスタイルの良いその娘を更に引き立てて見せていた。

 息子を産んで以来、どんな娘が嫁になるのかと、たまに想像してみてはいたのだが……。

 なんだか予想の斜め上を来たな、とユーリアは思っていた。

 恋愛に興味などなさそうなアドルフのことだ。

 誰かに押し切られて、あの目から鼻に抜けたような、さとすぎて扱いの難しいアデリナか。

 権力欲の強い父親を持つシーラ辺りをつかまされてくるのではないかと思っていたのだが――。

 未悠の横で沈黙しているアドルフに未悠は、
「どうしたんですか。
 早く訊いてください」
と小声でなにやら急かしている。

「今かっ?」
 空気読めっ、とアドルフが未悠に言っている。

「ちょっと歓談して、様子を伺って、人気のないところで、そっと切り出すものではないのか」

「そんなこと考えてたから今まで訊けなかったんじゃないですか。
 過去のことは追求しなくていいんですよ。

 誰にでもいろいろあるものなんですから。
 自分が誰の子なのかだけ、さりげなく伺ってください」

「どうさりげなく伺えというんだ。
 この状況でっ」

「今訊いても大丈夫ですよっ。
 この城には、お妃様が気を許されたものしか居ないはずです」

 未悠はそう言い切る。

 それはそうだ。
 人々の前に王妃として居ることに疲れたときに、こうして、別荘地を回っているのだから。

「空気を読んで、先延ばしにしてってやってるうちに、此処まで来ちゃったんじゃないですか。

 過去をすっきりさせ、新しい未来をつむぎ出していきましょうっ。

 いや、私が一緒に紡ぐかどうかはわからないですけど」

 未悠は此処に来たときの勢いが消えないうちにと早口にアドルフを説得しようとしていたが、
「どうしたいんだ、お前は……」
と言われていた。

 確かに。

 嫁になる予定がないのなら、アドルフが過去を吹っ切ろうとどうしようと、どうでもいいことではないか。

 単なる世話焼きなのか。

 なんらかの理由により、アドルフが好きだと認めたくないだけなのか。

 よくわからない娘だ。

 二人の会話を聞きながら、ユーリアは思っていた。

 親だと安定した未来の見える相手しか選ばないからと、本人に選ばせたのだが。

 ……こんなに未来が見えてこなくて大丈夫なのだろうか。

 いささか不安になってきたな、と思いながら、息子たちを眺めていた。


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