異世界で王子の暗殺頼まれました

菱沼あゆ

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……帰って来てしまいました

王子よ、それは現実逃避です

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 騒ぐユーリアをやってきたエリザベートがなだめていた。

「やめなさいよ、ユーリア。
 あんた、私は浮気を踏みとどまったのに、とか白状しつつ、騒ぎそうだから」
と冷静に言っていたが、口調が王妃に対するそれではなくなっていたので、エリザベートも冷静ではなかったのかもしれない。

 箱を手にした未悠は、黙ったまま、側に居るアドルフを見上げた。

 私とこの人は似ていない。
 でも、私はこの人にそっくりな人を知っていて。

 その人は、自分の兄だという。

 ……まさか、社長と私とアドルフで三兄妹だとか?

 そう。
 あの言葉も気になっていたのだ。

『その山の中の芝桜のところに行ってみたら、俺が青い布を、お前が赤い服を着て手をつないで立っていた』

 問題はトイレか? と思うような、その配色ではない。

 布?
 布ってなんだ?

 私は服を社長は布を着て立っていたというのか。

 私の方ははっきり服と言っているのだから、社長が着ていたのは、本当に布なんだろう。

 或いは、布のように見える服。

 未悠は珍妙なマントを着ていてるシリオとタモンを見た。

 シリオが、
「未悠。
 何故、私を見つめているのだ」
と期待を込めて言ってくる。

 いや、タモン様も見てますけど、と思いながら、未悠は思う。

 こういう得体の知れない格好をしていたから、布と表現されたのでは?

 マントを身体に巻き付けていたとか。

 現物が残っていとるいいんだけどな、と思いながら、シリオのマントを見つめていると、誰かが後ろから自分の目を片手で塞ぎ、引っ張った。

 おおっと、とよろけて、その人物の胸にぶつかる。

 そのまま、腰に手を回され、部屋を連れ出された。
 タモンをも巻き込み、まだ揉めているユーリアたちを置いて。

 もちろん、犯人はアドルフだった。

「ちょっと来い」
と言うので、ついて階段を上がる。

 その背中を見ながら、未悠は呟いた。

「この世界は……兄妹で結婚してもオッケーなのですか?」

 アドルフはこちらを振り返らずに、階段を上がりながら、
「オッケーなわけはないだろう」
と言う。

「誰が兄妹なんだ?」

「え。
 アドルフ様と私ですかね?」

「違うだろう」

 そうアドルフは言い切り、部屋の扉を開けた。

「お前と俺が兄妹なわけはないじゃないか」
と言い切る。

「根拠は?」
「こんなに好きなのに」

 そ、それは根拠なんですか?

「俺はお前以外の誰にも心を動かされたことはない。

 お前以外、この先、好きになる予定もないし。
 好きになるとも思えない。

 だから、お前は俺の妹ではない」

 どういう論法なんですか、と思っている間に、壁に押し付けられ、キスされていた。

「未悠……」
と間近にアドルフが自分を見、訊いてくる。

 社長に迫られても、こんな風に自分の鼓動が速くなることはなかったな、と思いながら、アドルフの黒い瞳を見つめ返す。

「王室というのは、まずいことは、なんでも隠蔽する体質だ。
 かつての王がおのれの弟、タモンを悪魔と名付け、塔に閉じ込めて、すべてなかったことにしようとしたように。

 此処で既成事実を作って、お前が俺の妃になれば、兄妹であっても、その事実は隠蔽されるだろう」

「いやあの、どっちかというと、私の存在が隠蔽されそうで怖いんですけど……」

 というか、その辺に埋められそうで怖いんですけど、と思う。

 特にあの王妃様は、平気で私の墓穴を掘らせそうだ……。

「未悠。
 私は初めて会ったときから、お前に惹かれていた。

 初対面なのに、すごく懐かしい感じがしたんだ」

 ……それはもうかなりヤバイ感じですよね。

 初対面なのに、懐かしい感じがしたのは、血の近い人間だからではないのですか、と思っている間に、アドルフは、もう一度、口づけてこようとした。

 それを手で塞ぐ。

「アドルフ様、私、王様にお会いしてきます」

 アドルフを見上げ、未悠はそう宣言した。

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