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王様を訪ねていきました

なんで誰も手を貸してくれなかったんですかーっ

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「なんで誰も手を貸してくれなかったんですかーっ」

 テーブルについた未悠が文句を言うと、向かいに座るリコが、
「いや、お前、悪魔の塔でも、エモノを出してきたから、どうせ、また、なにか仕込んでるだろうと思って」

 だから、今回も大丈夫だと思った、と言う。

「ほう、悪魔の塔か」
とスキンヘッドの男が笑う。

「あそこには悪魔が強奪してきた金銀財宝が眠っているが、恐ろしくて近寄れないと聞いたが」

 彼らは身体を柱に縛られているのだが、腹が減って暴れてはいけないとイラークが主張し、彼らの前には台が置かれ、食事が与えられていた。

 悪党の甘やかしだ……と思いながら、横からちょいちょい口を出してくる男たちを未悠は振り返り見ていた。

「金銀財宝なんてありませんよ」

「金貨の一枚も落ちてないぞ」

 未悠とリコが畳み掛けるように、スキンヘッドの男に言う。

「だって、あの人、寝てるだけなんだから。
 しかも、寝てる間に誰かに刺されたらしいんですよ、マヌケだから」
と言って、

「お前、悪魔と会ったのかっ」
とスキンヘッドの男に驚かれる。

 ……悪魔ってか、あれ、兄嫁に手を出したと疑われて、悪魔と罵られただけのただの女たらしですからね、と思ったが、タモンの名誉のために言わなかった。

「悪魔は今、何処に居るんだ。
 あそこには居なかったようだが」
とリコが訊いてくるので、

「悪魔は今、魔女に捕まって、こらしめられています」
と答えた。

 エリザベートに背後から棍棒で殴られそうだな、と思いながら。

 しかし、タモンとやり合うことで、生き生きとしてきたエリザベートはずいぶん若返って見え、この間、男やもめの伯爵が熱い視線でエリザベートを見ていたりしたので、まあ、あれはあれでいいかと思ったりもする。

「それで、お姫さんは、これから何処に行くんだ?」
とスキンヘッドの男が未悠に訊いてきた。

 お姫様じゃないけど……と思いながら、
「南の方です」
と答えると、

「そうか。
 俺がボディガードをしてやってもいいぞ」
と言い出した。

 未悠が、
「はあ、まあ、それもアリですね」
と言うと、

「正気ですかっ、未悠様っ。
 こいつ、この店と未悠様を襲おうとしたんですよっ」
とヤンが横から文句を言ってくる。

「店は襲おうとしてないぞ。
 タダ飯食らって、タダで泊まろうとしただけだ。

 だが、俺たちを泊めるといいこともあるぞ。
 戸の建て付けが悪ければ、気になるから直してやるし、風呂の火力が弱ければ気に入らないから、直してやるし。

 部屋にチリのひとつも落ちてれば、気になるから、綺麗に掃除してから出ていくから」

「……知らぬ間に働いてくれる小人さんか、妖精さんのようですね」

「未悠様っ、騙されないでくださいっ」
とヤンは言うが、

 いやいや、こういう大男が意外に几帳面で繊細だったりするものだ。

 それを聞いたイラークが、早速、厨房の裏口の戸の建て付けが悪いと相談していた。

 それを見ていたリコが笑い、
「イラークは料理に関しては几帳面だが、意外に大工仕事は苦手なんだ」
と言う。

 ……立っているものは悪人でも使え。

 いや、柱に縛り付けられているが、と思っていると、スキンヘッドの男は言ってくる。

「俺たちは多くを望まないんだ。
 帰る場所もいらない。

 そのときそのときで、食べるものと飲むものと、ふかふかのベッドと、よく冷えたビールがあれば」

「……要求が増えてってますよ、だんだん。

 ところで、お名前なんておっしゃるんですか? 皆様」

 どうも、最近、名前を聞きそびれる、と思いながら、未悠が訊くと、真っ先にスキンヘッドの男が、
「リチャードだ」
と言ってきたので、そのインパクトに後の連中の名前を忘れてしまった。

 ……なんだろう。
 偏見かもしれないが、リチャードって、もうちょっとこう、金髪巻き毛で細身な美形のイメージなのだが。

 このご面相だと、ゴンザレス、とかかと思った、とか考えていると、
「未悠っ」
といきなり、宿の玄関扉が跳ね開けられた。

 頭から黒いマントを被った背の高い男が現れる。

 いや、その風体っ、かえって怪しいですよっ!

 その声に誰だかわかり、未悠が立ち上がると、マントの男、アドルフは悪党……だかなんだかよくわからない男たちが縛り付けられている店内を見回し、

「どうしたっ」
と訊いてきた。

 いや、お前がどうしただ……と思う未悠をアドルフは、ぎゅっと抱きしめてくる。

「大丈夫か、未悠っ。
 こんなにやせ細って」

 いや……さっき出てきたばかりですけど、城。

「なんだこの愉快な男は」
と言うリチャードに、

「……隣の国の王子だろ、これ」
と何故知っているのか、リコが後ろで呟いていた。

「愉快な男、でもあまり間違ってはいない気がするが……」
と付け足しながら。


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