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王様を訪ねていきました
なんか楽しくなってきましたね~
しおりを挟むイラークが机を壁際に寄せた食堂の床に敷物を敷き、その上に物置から出してきた古びたクッションを並べるのを男性陣みんなで手伝っていた。
誰が此処に寝るかで揉めた挙げ句、男はみんな、此処で寝ることになったようだ。
部屋、あまっちゃったみたいだけどな、と未悠は苦笑いする。
「なんか楽しくなってきましたね、坊ちゃん」
と実は、リコのボディガードなのではないかと思う腕輪と足輪の二人連れは埃っぽいマットを運びながらご機嫌だった。
「あのー、王子。
王子が部屋で寝てください。
私が此処で寝ますから」
この人、床に敷物敷いて寝たことなんてないんだろうに、と思い、未悠は言ってみた。
いや、私もないんだが……。
だが、アドルフは、
「このケダモノの巣でか」
と本人たちを前に言う。
「私のことなら心配するな。
大丈夫だ」
と言うアドルフに、イラークが親指でリチャードたちを指差し、
「こいつらが部屋使わないっていうから空いてるぞ」
と言っていたが、アドルフは意地になっているのか、
「いいや、私も此処で寝る。
寝てみせるぞ、勇者になるためにっ」
と言い出した。
いや、だから、ならなくていいんですけどね、勇者……。
「ヤン、お前も此処で寝ろよ」
とアドルフに言われ、ヤンは、ええーっ? と眉をひそめている。
「では、わたくしが未悠様についております」
横でミカが笑って言っていた。
アドルフに送られ、未悠は二階に戻る。
ミカは先に部屋に入り、寝具を整えているようだった。
下からは、まだ、わいわい騒いでいる声が聞こえてくる。
キャンプのようで楽しそうだ。
「……女はつまらないですね」
と階段下を見ながら、思わず、もらすと、アドルフは、
「俺はお前が女でなかったら、つまらないが……」
と大真面目な顔で言い、おやすみ、と唇にキスしかけ――
額にキスして、去っていった。
未悠は、そのままそこに立ち、アドルフが階段を下りていく軋む音を聞いていた。
……しかし、本当に城をあけていていいのだろうかな、この人、と思いながら。
誰も二階に上がったりしないだろうな、と目を光らせながら、アドルフはリコたちとともに、床に敷かれた古いマットに横たわっていた。
黴臭いのもホコリっぽいのも今は気にならない。
何度も未悠の居る二階を見上げる。
せっかく会えたのに、離ればなれとは……。
壁に立てかけてあるリチャードの棍棒を見ながら、あれで天井に穴を開けたら、未悠が落ちてこないだろうかと、ユーリアに親子の縁を切りたい……と言い出されそうなくらい阿呆なことを考える。
あんな立派な父上が居ながら、塔の悪魔に惹かれるなぞ、母上は莫迦なことをなすったものだと思っていたが。
なんだか訳のわからないうちに、ものすごい力で心を持って行かれるのが恋というものなのだと、未悠に出会って初めて知った。
気がつけば、リコが昔見た二胡とかいう楽器に似たものを手にしていた。
倉庫からマットとともに出て来たらしい。
おいおい。
この時間から弾くつもりか、と思ったのだが。
楽器が奏でたのは、思ったより静かな音色で、それに合わせて、リコが不思議な古代語のような言語で歌い出す。
聴いたこともないのに懐かしいような旋律。
妙に耳に馴染むリコの歌声に、アドルフはいつの間にか、聴き入っていた。
何処かの王室が、古代の言葉をなくさぬように、王族の間で、受け継がせていると聞いたが。
リコは何者なのだろうな、と思いながら、目を閉じた。
ベッドに横になっていた未悠は、おや? と思う。
控えめに聞こえてくる楽器の音。
それとともに、流れて来る歌声はリコのもののようだ。
いつか聴いたラテン語の歌に似ている。
そういえば、アドルフが塔の下で見つけたというラテン語のノート。
あれはもしかしたら……と思っているうちに、眠りに落ちた。
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