異世界で王子の暗殺頼まれました

菱沼あゆ

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お城に帰ってきました

あれが魔王ですよ

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「なにっ
 此処に魔王が居るのかっ」

 広間でのお披露目のあと、タモンのことを聞いたリチャードがそう言ってきた。

 はあ、魔王と言いますかね……。

 ただの悪魔だったんですが、いつの間にか、魔王に格上げされてるようなんですよね、と思いながら、未悠は、
「会いに行ってみられます?」
とリチャードに訊いてみた。

 興味津々のようだったからだ。

 すると、リコたちも物見遊山気分で乗ってきた。

 タモンは図書室に居ると教えられ、みんなを引き連れて行ってみる。

 静かに本でも読んでいるのかな、と思いながら扉を開いてみると、タモンは窓際で女性陣に囲まれ、昔話をしていた。

 昔、この辺りになにがあったとか。

 昔の城の料理の話とか。

「歴史の研究家だとお聞きしましたけど、本当にお詳しいですわね」
と艶やかな女性がにこやかに言い、タモンは満更でもなさそうだった。

「……この城は女が多いな」

 その様子を見ながら、リチャードが言う。

 いや、貴方の行くところに、たまたまイケメンがたくさん居るので、女性も吸い寄せられて来ているだけですよ、と未悠は思っていた。

 むさいオッサンたちに囲まれたければ、外の鍛錬場たんれんじょうにでも、と思ったのだが、特にそのような要望はないようだった。

「ところで、此処には男は、チャラチャラした若造しか居ないようだが。
 魔王は何処だ?」
と訊くリチャードに、

「あれが魔王ですよ」
と華やかな女性陣に囲まれたタモンを手で示すと、沈黙していた。

 黙ってタモンを観察していたリチャードは、困ったように、ごつい手でおのれの顎をさすりながら言ってくる。

「細い男だな。
 魔王というからには強いのか?」

 いや、まあ、見るからに弱そうですよね……。

 私でも、フォークで倒せそうですよ、と思う。

「どんな技が使えるんだ? あの男」

 私を異世界に吹き飛ばしたり、戻したりするくらいですかね……。

 じっと見つめ、タモンの戦闘能力を測っていたらしいリチャードは、
「あの男に勝ったら、私が魔王を名乗れるのだろうか」
と言い出した。

 いや、そもそも、タモン様、魔王を名乗ってませんけどね、と思っていると、リチャードは、窓の外、タモンの向こうに見える、あの悪魔の塔、改め、魔王の塔を見、
「俺が勝ったら、あの塔も俺のものになるのか?」
と言い出した。

「……欲しいですか?」
と訊いてみる。

 あのなにもない、入り口の壊れた塔を?

 見ると、リチャードも渋い顔をしている。

 そして、眉をひそめた。

「誰か居るな」
「え?」

「あの塔の中にだよ」

「また盗賊ですかね?
 っていうか、よく見えましたね」
と言いながら、未悠も目を細めてみたが、森の奥に塔がある、ということくらいしかわからない。

 そのとき、タモンが立ち上がり、こちらに来た。

「やあ、未悠。
 お帰り。

 その御仁ごじんは誰かな?」
と、いかついスキンヘッドの甲冑男を見て問うてくる。

「この人は、タモン様に勝って、魔王になりたい人です」
と教えると、タモンは、

「ほう。
 魔王か。

 夢を大きく持つのはいいことだが。
 私は魔王ではないぞ」
と言ってきた。

 ですよね……と思いながらも、
「魔王になって、あの魔王の塔を手に入れたいらしいです」
と教えると、タモンはリチャードに、

「あれが欲しいのか?」
と訊いていた。

 リチャードは悩んでいる。

 そりゃそうだろう。

 古い塔だし、隙間風で寒そうだし。

 てっぺんの部屋は血まみれの事故物件だ。

 いや、そんなことリチャードは知らないだろうが。

「欲しいのか?」
ともう一度問われ、

「塔は特にいらんな。
 そうだ。
 俺が勝ったら、この娘を貰おうか」
とリチャードは、たまたま近くに居たアデリナを捕獲し、小脇に抱える。

 軽くひょいと抱えられた細腰のアデリナは、
「なんですの、この方はっ。
 勝ったら、貰おうって。

 そもそも私、タモン様のものではありませんけどっ?」
とぎゃあぎゃあ言っている。

「未悠っ。
 なんなんですかっ、この荒くれ者はっ」

 叫ぶアデリナに、うわっ、何故、こっちにお鉢が回ってくるっ、と思いながら、未悠は、
「えーと。
 大丈夫。
 そんなに荒くれてない」
となにが大丈夫なんだかわからないことを一応、教えた。

 未悠は、まだ騒いでいる連中越しに塔を見る。

 やはり、なにも見えなかったが、そういえば、と思い出していた。

 塔に灯りがついていたという話を。




「それで、未悠。
 アドルフ様と逃避行されて、どうでしたの?」

 リチャードから解放されたあと、興味津々、アデリナが訊いてきた。

 リチャードたちは、何故かいつの間にか、女性陣に混ざり、タモンの話に聞き入っている。

 寝たり起きたりしながらだが、長い時間を生きてきたタモンの話は説得力があり、興味深いようだった。

 そのとき、何処からか湧いてきたシーラが、
「あら、駆け落ちしてたんですの?
 正式に王子妃に決まった貴女が何故、アドルフ様と駆け落ちすることになったんですの?」
と訊きかけ、ふと、思い出したように喧嘩を売ってくる。

「そうでしたわ。
 貴女が王子妃になってしまったから、行き場のなくなった私は、バスラー公爵のところに売られることになったんでしたわ」

 そ、そうですか。
 すみませんね、と思っていると、
「で?
 アドルフ様と駆け落ちして、どうなったんですの?」
とやはり、気になるようで、シーラは突っ込んで訊いてくる。

 いや……なにも貴女方が期待しているような展開などなかったのですが。

 というか、アドルフ様が来た途端、引き返すことになって。

 結局、その辺まで出かけて、リコやリチャードたちを連れて帰っただけの旅だったんですが……。

 と思ったあとで、未悠は思う。

 でもそうだな、と。

 アドルフ様と結婚出来ないかもと思ったり、離れて旅に出たりしたら。

 少しアドルフ様が恋しくなったりとか、しないこともなかったかな? とちょっとしんみりしたところで、タモンの話を聞きながら、窓の外を見ていたリチャードが、

「未悠」
と呼んできた。

 なんか、この男に呼ばれたら、ロクなことがないような……と思っていると、
「今から、塔に行ってみようかと思うんだが、お前も来るか」
と言ってきた。

 は? 私? と思っていると、周りの女性たちに、なにやら言われ、リチャードは微笑みながら、
「いやいや、あんなところ、ご婦人方のいらっしゃるような場所ではありませんぞ。
 あとで土産話でもお聞かせしましょう」
 などと言っている。

 いやいや、待て、と思った。

 ご婦人方のいらっしゃるような場所ではないところに、何故、貴方は、私を連れていこうとしていますか。

「あんなところってなんだ……」
と文句を言っているタモンも、リチャードは一緒に連れていくつもりのようだった。


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