異世界で王子の暗殺頼まれました

菱沼あゆ

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またまた旅に出ました

わたしの謎が解けました

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悪魔を倒すつもりだったのです」
 そうロザリナの霊は語り出した。

「でも、美しい悪魔に惑わされ、私は悪魔の子を身ごもりました」

 ……上手く切り抜けたってそういうことなんですか、お父様、と未悠は、タモンを見る。

「タモン様はそのことを知らないまま、眠りにつかれ、私はひとり、このシャチョーを出産しました。

 悪魔の子を宿したので、もう神殿の巫女候補からは外されてしまいましたが、シャチョーと二人、森の小さな屋敷で暮らし、幸せでした。

 父は不名誉なことだと憤っていたのですが。
 母は孫可愛さもあり、私たち二人をかくまってくれていたのです」

 代々、巫女候補は王家と縁続きの名家の娘がなるもののようだった。

 そういえば、前の巫女も王妃の大叔母だと言っていたし。

「姉、ロザリナは巫女候補から外れましたが。
 悪魔の子を宿した姉を持つ私の立場も危うかったのです」
と未悠の母、カタリナが語り出す。

「表向きは、巫女候補の娘が悪魔の子を宿したことは伏せられ、姉は病弱を理由に巫女候補から外れていたのですが。

 怪しむものも居ました。

 姉は、酒樽を両手にひょいと抱えて蔵まで運べると重宝されていた、頑健な身体の持ち主だったので。

 私は次期巫女としてのおのれの地位を確かなものとするために、塔の悪魔を倒しにいきました」

 だからですね、お母様。
 貴女がたは何故、なんの悪事をしたのかもわからぬ悪魔を倒しに行くのですか。

「すると、そのとき、ちょうどタモン様が目覚められ、私もタモン様の子を身ごもりました」

「こういうことがあったから、塔に近づいただけで妊娠するって話が出たんじゃないんですか、タモン様」
と未悠は同意を求めて、父、タモンを見たが。

 タモンはタモンで、愕然として、ロザリナとカタリナを見ていた。

「別人だったのか」
「……あの、名前くらい聞いてから妊娠させてください」

「娘を二人も悪魔に妊娠させられた父は怒り、塔の入り口を塞ぎました」

 あの地下へのマンホールみたいなの蓋は祖父が作ったものだったのか。

 いや、簡単に私の体重で割れたし。

 ナディアも王妃様たちも気にせず、乗り越えていっていたようなんだが。

「父は、私たちの子どもを悪魔の子だと罵り――」

 いや、そこはお祖父様、間違ってないです……。

「王家の血筋に双子が産まれたときにするのと同じように、王家の紋章の入った衣類を着せ、私たちの子を花畑に置き去りにしたのです。

 慌てて、私たちは花畑に駆けつけましたが、もう貴方たちの姿はありませんでした。

 私たちは、今まで、消えたお前たちのことが気がかりで、此処に居ましたが。

 やっと会えたので、しばらくお前たちを見守ってから、生まれ変わるとしましょう」

 そう言い、カタリナとロザリナは微笑んだ。

 ……生まれ変わるのはいいのですが。

 まだまだこの人生きてそうなんですけど。

 また騙されないでくださいね、とタモンを見ると、その考えを読んだようにタモンは言う。

「いや、私は今回はもう眠らないのかもしれぬ」

 眠らず、年をとっていくのかも、とタモンは言った。

「さすがに毒が薄れて眠らなくなったのかもしれないし。

 私の血を継ぐお前たちが現れたからかもしれない。

 こうして、おのれの血を残し、人は命を繋いでいくものだからな」

 いや、なんか綺麗にまとめようとしてますが。

 倒そうとやってきた姉も妹も一瞬のうちに、籠絡ろうらくして手篭てごめにしたって話ですよね。

「ある意味、最終兵器ですね」
とヤンが呟き、

「ああ、恐ろしいほどの女たらしだ」
とアドルフが深く頷いた。




「なんだ、悪魔ではなく、いにしえの王の弟君だったのですか」

 大神殿で、タモンの誤解も解け――、

 いや、巫女候補二人を妊娠させたのは、なんの誤解でもなかったはずだが……、
と未悠が思う中、一行を歓迎する祝宴が始まった。

 騒がしい神殿を抜けた未悠は、夜の砂漠に伸びる真っ白な細い道を見た。

 その先には、砂埃に霞む街。

 そして、その上には、これまた霞む丸く白い月が見える。

「戻ったら、式をしようか」

 ふいに、そんな声が後ろから聞こえてきた。

 アドルフが立っている。

「此処まで来たことは間違いではなかったな。
 お前と兄妹でないことがわかった。

 これでなんの障害もない」
と言うアドルフを、

「いや……そうですかね?
 私は、貴方の先祖の血を引いていたわけですよ。

 ひいひいひいひいひいおばあちゃん的な感じなんですけど。
 それでも、オッケーですか?」
と言って、未悠は見上げる。

「妹でも構わないと思ったんだ。
 婆さんでも構わない」
と嬉しいんだか、嬉しくないんだかわからないことを言ったアドルフは、後ろから未悠の顎に触れてきた。

 上を向かせ、そっと口づけてくる。

 だが、アドルフの表情は冴えなかった。

「どうしたんですか?」
と訊いてみたのだが、

「……いや。
 なんでもない」
とごまかされる。

 アドルフは、ただ強く、後ろから抱きしめてきた。

「お前が何者でも、何処の世界から来たのでも、年をごまかしていても関係ない。

 産まれてきてから今まで、俺が心を動したのは、お前だけだから」

 ……安心するな、と未悠は目を閉じる。

 安心するな、アドフル様の腕の中は。

 どきどきもするけど、と見上げたアドルフの表情は、自分とは対照的に真っ青だった。

 ……本当に隠し事のできない人だ。

「なにがあったんですか?
 巫女様とお話されていたようですが」
と未悠は訊いてみる。

「同席していたお母さんたちが、まあ、可哀想にーって言ってたみたいなんですけど」
と言うと、アドルフは何故か、

「……霊だから抹殺できないが、あの二人は余計なことを言わないよう、なんとか黙らせないとな」
と呟いていた。

 一体、なにが……と苦笑いしながらも、未悠は、逃すまいとするかのように、強く抱きしめてくるアドルフの腕の中に居た。




 あの姉妹を黙らせたところで、なんの解決にもならないか……とアドルフは思っていた。

 大神殿で、自分と未悠の未来を見てもらったのだ。

 今までいろいろありすぎたから、ちょっと不安で――。

 だが、見るのではなかった。

 ピンクの可愛らしい花の咲き乱れる森の中、未悠がグレーのスーツを着た男と抱き合っている未来が見えたのだ。

「未悠……」

「はい」

「俺は未来は望めば変えられるものだと思う。

 お前が好きだ。
 城に戻ったら、すぐに結婚しよう。

 生涯ただ一人、お前だけが俺の花嫁だ」

 ……はい、と頷き、未悠は笑ってくれた。

 だが、未悠が城に戻ることはなかった。

 途中、通ったあの花畑の近くで、
「そうだ。
 大神殿の石買うの忘れてま……」
と言い終わらないうちに未悠の姿は消えていた。

 駿の姿もなく、あとにはただ、未悠が乗っていた馬だけが残された。



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