仏眼探偵II ~幽霊タクシー~

菱沼あゆ

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仏像は祟らない

そいつは何処かで聞いたことがある

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 店の中で、フランクフルトとチキンと珈琲を買って、外で三人で齧る。

「ずっと立ってるのも疲れますね」
と深鈴が言うので、

「しゃがんでみたらどうだ?」
と言うと、志貴が、

「僕らがヤンキーみたいになっちゃいますよ」
と言う。

 いや、年齢的にもうヤンキーとかないだろう。
 警察と行動を共にしたりもしていた志貴は、スーツだし。

「志貴、お前、ひとりで此処に居ろよ。
 その方が女子高生だろうが、小学生女子だろうが、OLだろうが、ペラペラ喋るだろ」
と言うと、

「嫌ですよ。
 そんなこと言って、深鈴と二人で何処行く気なんですか」
と文句をつけてくる。

 そんなことで揉めている間に、向こうから、女子高生の集団が来た。

「……意外と美人のお姉さんが話しかけた方が、女も安心して喋るかもな」

 行け、深鈴、と言ったが、
「すみません。
 私、今、ケチャップまみれです」
と意外に不器用な彼女は手や口許を赤くして言う。

 ……ホラーだ、と思いながら、仕方なく自分が行こうとすると、目の端に、
「もう~、仕方ないなあ」
と言いながら、深鈴の口許や襟元を拭いてやっている志貴が見えた。

 殺スッ!

 凶悪になりかけた表情をなんとか抑え、女子高生たちに話しかける。

「ちょっと君たちすまないが」

 彼女らは、何故か赤くなり、
「は、はいっ」
と勢い良く返事してきた。

「ちょっと訊きたいことがあるんだが。
 ああ、怪しいもんじゃない」

 探偵だ、と言おうとして、……それもまた、怪しいな、と気づく。

 志貴を振り向き、
「警察だ」
と志貴を前へと突き出した。

 嘘は言っていない。

 女子高生たちが志貴を前に騒ぎ出す。

 よかった。
 あとは志貴に任せよう、とほっとして、深鈴の側に戻ろうとすると、すごい形相で見られてしまった。

 ……すまん。



 結局、深鈴も交え、女子高生達に幽霊タクシーの話を聞いていた。
 やはり、地元では有名な話のようだった。

「他にも怖い話ありますよ、イケメンの探偵の先生」
と女子高生のひとりが言い出す。

「いや、俺は怖い話集めてるわけじゃ……」

 そう言いかけたが、
「近くの鍾乳洞にも鎧武者の霊が出ますよ」
と言ってきた。

「鍾乳洞?」

「山の方にあるんです」
とあの宿の近くを指差す。

「地震で中が崩れたらしくて、今は入れないんですけどね」

「そういえば、歩く仏像の話知ってる?」
と他の子がその子に向かい、訊いていた。

「歩く仏像?」

「なんか山の中の仏像が或る日、突然、居なくなったんだって」

「あー、聞いたことあるー。
 でも、その仏像、そもそもそこにはなかったのが、突然現れたって聞いたけど。

 それがまた、ひょいと消えたから、歩いてきて、また、歩いてどっか行ったんだろうって」

「旅人か……」
と晴比古は苦笑いする。

「あれ?
 仏像だっけ?

 お地蔵さまじゃなかった?」
と一人が言うと、別の一人が、

「なんかしんないけど、木彫りだって言ってたよ」
と言った。

「木なのか? その仏像」
とそう言った少女を晴比古が見つめると、彼女は赤くなって、少し後ずさる。

「た、確かそう言ってましたよ。

 えーと。
 おにいちゃんが誰かから聞いたって言ってました。

 バイク仲間の、ほら」

「あっ、あの、ちょっと格好いいっていうか、可愛い人じゃない?
 ヤンキーっぽいけど」

「あ、俊哉さん?」
と他の子らが言う。

 ヤンキーっぽい俊哉?

「……それは、もしや、ヤンキーっぽいが、ヤンキーって年じゃない俊哉なんじゃないのか?」
と晴比古が問うと、

「さあ?
 でも若いよね、まだ」
と誰かが言い、

「よく知らないけど。
 そういえば、俊哉さんって童顔だって、おにいちゃん言ってた」
と最初の子が言い出した。

「兄貴」
と志貴を見る。

「俊哉に電話しろ」

 えーっ、と志貴が苦笑いする。


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