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仏像は祟らない
そいつは何処かで聞いたことがある
しおりを挟む店の中で、フランクフルトとチキンと珈琲を買って、外で三人で齧る。
「ずっと立ってるのも疲れますね」
と深鈴が言うので、
「しゃがんでみたらどうだ?」
と言うと、志貴が、
「僕らがヤンキーみたいになっちゃいますよ」
と言う。
いや、年齢的にもうヤンキーとかないだろう。
警察と行動を共にしたりもしていた志貴は、スーツだし。
「志貴、お前、ひとりで此処に居ろよ。
その方が女子高生だろうが、小学生女子だろうが、OLだろうが、ペラペラ喋るだろ」
と言うと、
「嫌ですよ。
そんなこと言って、深鈴と二人で何処行く気なんですか」
と文句をつけてくる。
そんなことで揉めている間に、向こうから、女子高生の集団が来た。
「……意外と美人のお姉さんが話しかけた方が、女も安心して喋るかもな」
行け、深鈴、と言ったが、
「すみません。
私、今、ケチャップまみれです」
と意外に不器用な彼女は手や口許を赤くして言う。
……ホラーだ、と思いながら、仕方なく自分が行こうとすると、目の端に、
「もう~、仕方ないなあ」
と言いながら、深鈴の口許や襟元を拭いてやっている志貴が見えた。
殺スッ!
凶悪になりかけた表情をなんとか抑え、女子高生たちに話しかける。
「ちょっと君たちすまないが」
彼女らは、何故か赤くなり、
「は、はいっ」
と勢い良く返事してきた。
「ちょっと訊きたいことがあるんだが。
ああ、怪しいもんじゃない」
探偵だ、と言おうとして、……それもまた、怪しいな、と気づく。
志貴を振り向き、
「警察だ」
と志貴を前へと突き出した。
嘘は言っていない。
女子高生たちが志貴を前に騒ぎ出す。
よかった。
あとは志貴に任せよう、とほっとして、深鈴の側に戻ろうとすると、すごい形相で見られてしまった。
……すまん。
結局、深鈴も交え、女子高生達に幽霊タクシーの話を聞いていた。
やはり、地元では有名な話のようだった。
「他にも怖い話ありますよ、イケメンの探偵の先生」
と女子高生のひとりが言い出す。
「いや、俺は怖い話集めてるわけじゃ……」
そう言いかけたが、
「近くの鍾乳洞にも鎧武者の霊が出ますよ」
と言ってきた。
「鍾乳洞?」
「山の方にあるんです」
とあの宿の近くを指差す。
「地震で中が崩れたらしくて、今は入れないんですけどね」
「そういえば、歩く仏像の話知ってる?」
と他の子がその子に向かい、訊いていた。
「歩く仏像?」
「なんか山の中の仏像が或る日、突然、居なくなったんだって」
「あー、聞いたことあるー。
でも、その仏像、そもそもそこにはなかったのが、突然現れたって聞いたけど。
それがまた、ひょいと消えたから、歩いてきて、また、歩いてどっか行ったんだろうって」
「旅人か……」
と晴比古は苦笑いする。
「あれ?
仏像だっけ?
お地蔵さまじゃなかった?」
と一人が言うと、別の一人が、
「なんかしんないけど、木彫りだって言ってたよ」
と言った。
「木なのか? その仏像」
とそう言った少女を晴比古が見つめると、彼女は赤くなって、少し後ずさる。
「た、確かそう言ってましたよ。
えーと。
おにいちゃんが誰かから聞いたって言ってました。
バイク仲間の、ほら」
「あっ、あの、ちょっと格好いいっていうか、可愛い人じゃない?
ヤンキーっぽいけど」
「あ、俊哉さん?」
と他の子らが言う。
ヤンキーっぽい俊哉?
「……それは、もしや、ヤンキーっぽいが、ヤンキーって年じゃない俊哉なんじゃないのか?」
と晴比古が問うと、
「さあ?
でも若いよね、まだ」
と誰かが言い、
「よく知らないけど。
そういえば、俊哉さんって童顔だって、おにいちゃん言ってた」
と最初の子が言い出した。
「兄貴」
と志貴を見る。
「俊哉に電話しろ」
えーっ、と志貴が苦笑いする。
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