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消えずの火と第一の殺人
倖田ロープウェイ
しおりを挟む「さて、お前が調べに来た、墓のない島の墓の正体はわかったが、どうする?」
そう茉守はマグマに問われた。
「そうですね。
少し観光でもして帰ろうかなと思います」
「じゃあ、もう少し付き合ってやろう」
と言ってくれたので、ありがとうございます、と茉守は頭を下げたが、いきなりケチをつけられる。
「……なんだ、そのデパートの店員かなにかみたいなお辞儀の仕方は」
「デパートの店員のアルバイトをやったことがあるので」
スマイルゼロのお前がかっ、とまた驚かれる。
「何処か行きたいところはあるか」
いえ、と言うと、
「とりあえず、山頂に行ってみるか」
と言う。
「宮島みたいに、消えずの火があるぞ。
一千年だか二千年だか前からついてるらしい。
此処が禁足地だった頃からの火かな」
「一千年と二千年じゃ、ずいぶん違うと思いますが」
ざっくりにも程があるな、と思う。
細かいことを気にしないのは、この男の性分なのか。
それとも、此処の島民の性分なのか。
ともかく、この格好も言動もまったく坊主っぽくない男について行ってみることにした。
「ニート、お前も行かないか」
と振り向き、マグマが声をかけたが、
「山頂なら、遠足で何度も見に行った。
興味ない」
と島全体に引きこもっているというニートは答える。
だが、
「おい、歩いて登る気か」
そのまま山を上がろうとするマグマをニートが止めた。
ニートは少しヒールが高めの茉守の靴を見ながら、
「ロープウェイで上がれよ」
と言う。
マグマは、ちっ、と舌打ちしたが、
「仕方ない。
ロープウェイで行くか」
一旦、下りるぞ、と言って、今来た坂を戻っていった。
そのロープウェイはまだ新しかった。
「このロープウェイもそうなんだが。
観光客を呼び込むために、今、いろいろやってるみたいなんだ。
観光名所を作ったり」
「観光名所って作るものなんですね」
「そのうち、二人で鳴らすと永遠に幸せになれる鐘とかいうのも、山頂か海岸沿いに作るらしいぞ」
「そういうのって、元になる伝説とかないと駄目なのでは?」
「地元の歴史を掘り返したら、何処からかなにかしら出てくるだろう、と言っていたぞ、倖田が」
「誰ですか? 倖田さんって」
「俺の同級生の県会議員だ。
ちなみに、このロープウェイ、倖田の働きかけでできたんで、倖田ロープウェイとみんな呼んでいる」
「ずいぶんお若い議員さんなんですね」
「ああ、島の発展に貢献しようと頑張っている立派な奴かもしれないが、俺は気に食わない」
昔から、いけすかない奴だった、とマグマは言う。
「だから、俺はできるだけ、このロープウェイは使わない」
「どのようにいけすかない方なのですか?」
「……頭が良くて、運動もできて、表向き人当たりがよくて。
一緒に悪いことやっても、何故かあいつだけが怒られない」
幼稚園でも小学校でも、中学校でも、大学でもそうだったっ、と叫ぶマグマに、
「ずっと、つるんでらしたんですか?
それはただの仲良しな人では」
と思ったままを言って睨まれる。
小さなロープウェイからは緑に包まれた渓谷の絶景が見えた。
「このロープウェイ、私たち二人のために動いてますよ。
大丈夫ですか?
経営、成り立っているのですか?」
そう茉守は訊いたが、マグマは素っ気なく言う。
「そのうち、観光客も来るだろ。
そもそも早すぎなんだよ、開通式が。
年寄りは朝が早いからな」
「そうですか。
ところで、マグマさんって、ご結婚はされてますか?」
「いや。
……どうして、そんなことを訊く?」
と横に立って渓谷を眺めていたマグマが不審げに振り返る。
「女性に恨まれた覚えはありませんか?」
「……何故、俺の後ろを見て言う。
一点を見つめるなっ。
なにが居るんだっ。
俺たち、二人しか乗ってないはずだろっ、このロープウェイッ」
「いえ、他にもいらっしゃいますよ」
と茉守はマグマの後ろや横に視線をさまよわせる。
無賃乗車かっ。
霊にも金を払わせろっ、とマグマが叫んでいるうちにロープウェイは山頂に着いていた。
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