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容疑者マグマと第二の殺人
神の住まう島の寺
しおりを挟む「お前がちょいちょいかき氷屋の名前を出してくるから。
お前によるサブリミナルでかき氷屋が一番怪しく思えてきたぞ」
そうニートは言ったあとで、茉守を見下ろし、
「ところで、晩ご飯はなんにする?
マグマのところに泊まるんだろう?」
と訊いてくる。
その背後では死体が運ばれていっている。
この人も繊細そうな顔してるけど、神経は太いよな~と思いながら、
「なにかこう、あったかくて、柔らかいものですかね」
と言って、
「年寄りか」
と言われてしまう。
三人で商店街で買い物をして帰り、ニートが食事を作るのを手伝う。
ニートの作ってくれたご飯は美味しかった。
立派な引きこもりの人だ、と茉守は思う。
「無表情なのに、よく食うなっ」
とまた言われた。
宿泊費も食費もいらないと言われたので、お礼に茉守が買ってきたケーキをみんなで食べる。
「日帰りの予定だったんだろうに。
親に連絡しなくていいのか?」
とマグマに問われ、
「ああ、大丈夫です。
今は一人暮らしなので」
と答えて、
「一人暮らしなのに家事できねえのかよっ」
と驚かれる。
「いや、お前もできないだろうが……」
とマグマもニートに言われていたが。
寺の広い母屋の掃除も早朝からニートがしているらしい。
なんてよく働く引きこもりの人だ、と茉守は感心する。
「俺が掃除しないと、家の中、散乱するから」
とニートは言う。
「絶対にゴミ捨てないんだ、こいつ。
捨てても、何故かまた同じ場所に同じようなゴミが戻ってるから。
俺は、こいつと暮らすようになって、何度も時が戻ったかと思った」
その話がちょっと可笑しく。
笑おうかと思ったが、慣れていないので、いつ笑っていいのか、よくわからなかった。
茉守はニートの片付けを手伝った。
そのあと、なにもないガランとした和室をあてがわれ、ニートとともに布団を敷く。
「そういえば、署長さんの正確な死因はなんでした?」
「マグマが電話で訊いていたが。
マグマなんで、キレられて教えてもらえなかったようだ。
あとで俺が誰かに探りを入れとくよ」
と二人で静かに話すそんな夜――。
倖田は例の災厄が訪れる橋の上で車をとめ、困っていた。
ライトに照らし出されているのは、明らかに死んでいる若い女。
目を見開いたまま大の字に橋の真ん中に倒れ、顔はこちら側、島の方を向いている。
「呑みすぎて、気絶しちゃってました~」
と可愛く笑って起きてきてくれないだろうかと願ってみたが、駄目だった。
女はいつまでも死んでいる。
ヤバイ……。
あいつらに絶対に見つけるなと言っておいたのに。
この俺が死体を見つけてしまうなんてっ、と倖田は固まる。
埋めるか。
いや、捨てるか、と倖田は暗い海を見る。
いやいや、こいつは俺が殺した死体じゃあない。
通報するんだ、今すぐにっ、と思ったら、今度は早くしなければと思い、焦る。
誰かにこの姿を見られる前に、通報しなければっ。
こんなところに突っ立ってて、きゃーっとか人に叫ばれて、先に通報されたら面倒だ。
倖田は一転、焦って電話した。
「マグマ!
死体を見つけたっ!」
「そうか。
警察に通報しろ」
どうしたことだ。
マグマの方が冷静だ。
俺は動揺しているのか?
なんでだろうな、と死体を見下ろし、倖田は思う。
橋脚に打ち付ける波の音を聞きながら、警察より先にマグマたちが到着するまで、そこに立ち尽くしていた。
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