神の住まう島の殺人 ~マグマとニート~

菱沼あゆ

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容疑者マグマと第二の殺人

気づかれてはならない

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「警察も当たっただろうが。
 被害者たちが島の宿に泊まってたかと思って、あちこちの宿に訊いてみたんだ」

 倖田の運転する車の中でニートが言う。

「ふと、そういえば、たまに民宿みたいなことやってる家あったなと思い出して」

 まだ起きてそうだったので、その三田村という家に電話をしてみたらしい。

 すると、おばあちゃんが出てきて、いろいろ教えてくれたという。

「三田村さんが昼間、本土のちょっと島から離れたところにある宿のおばあさんと世間話をしたらしいんだが。

 そのとき、なにか様子のおかしい若い女性客を泊めたが、大丈夫だろうかって話をしてたらしくて」

 今、服装などを確認してもらったら、死んだ女性のものとそっくりだったと言う。

「でかした、ニートッ」
と助手席のマグマがまた叫ぶ。

「普段から、じいさんばあさんに優しくしてた甲斐あったなっ」

 倖田が運転しながら、ニートに言った。

「普段はやってない民宿から聞いた、本土の離れた場所にある宿の話か。
 ならば、警察はまだその話にたどり着いていないかもしれないな」

「まあ、すぐに本土側の宿にも問い合わせただろうから。
 遠からず、警察もその宿にたどり着くだろう。

 本土に宿をとっていた可能性は最初から充分にあったからな。
 島で連続殺人が起こっているから、島側に重点を置いてはいるだろうが。

 今は橋があるから、本土も島もない」

 船を待たずともいつでも渡れる、とニートは言う。

「もう落とせよ、この橋」

 マグマが目の前に見えてきた暗い海にまっすぐ伸びる白い橋を見ながら言う。

 小さな橋なのに、これひとつで、島のすべてが変わっていくように茉守には思えた。

 お年寄りの人たちが言うように。

 みなが眠っている時間帯にも、じわじわと橋を通じて、世俗の穢れが島を侵食しようとしているような、そんな気がした。

 この私が、人が死んではならない神の島に入り込んでしまったように、と茉守は眩しい工場の灯りに照らし出されている本土を見る。

「まるで、一晩中やってるテーマパークみたいですね」

 暗い島から見ると、別世界の眩しさな工場を見ながら、茉守は目をしぱしぱさせる。

「……そうだな。
 ところで、気になることがあるんだが」

「やめろ、倖田言うな」
とマグマが横から言う。

「そうだな。
 本人が気づいてないのなら」

「気づいてるぞ」
と茉守の横、後部座席からニートが言う。

 島に引きこもっているはずのニートが、このままでは島から出てしまう。

 すでに車は橋の上に乗っていた。

「……橋の何処までが島のエリアなんだろうな」
とマグマが呟く。

 海を見ながら茉守が言った。

「あの鳥居までは島の神域だとご老人たちがおっしゃってましたよ」

 暗がりにそびえる小さな海の中の鳥居を指差す。

 そこで、倖田が、
「いや、俺の所有するこの車の中に居れば、何処までも島の領域ってことでいいんじゃないか?」
と言いながら、橋の中程を越えた。

「待て。
 お前の今の住まい、島の外にないか?」
とマグマが言ったときにはもう、短い橋は渡り終えていた。

「ニート、もううちの県への引きこもりってことにしろよ」

 振り返ってマグマが言う。

「いや、いい……」
と窓の外を見ながらニートは呟くように言った。

「もう遅い。
 それに、別に引きこもってたわけでもないから。

 理由があって、島から出なかっただけだ」

 そのとき、
「おい、あの旅館じゃないかっ?」
と倖田が叫んだ。

 どっしりとした立派な門構えの老舗旅館のようだ。

 オレンジの灯りに照らし出された古い宿は幻想的だ。

 だが、そんなものを味わう暇もなく、反対側からも車が来る。

 その車を見た瞬間、マグマが叫んだ。

「覆面パトだっ。
 負けるな、倖田っ」

 いつから、どっちが先に話を訊くかの争いになったんだろうな……と思いながら、茉守は同時に駐車場に車を突っ込み、走り出す男たちを眺めていた。

「足で俺に勝てると思うなよ、佐古っ」

「俺は勝てなくとも、うちには、元陸上部のエースがっ」
と言ったところで佐古は振り返り、

「てめっ、なに呑気に車に鍵かけてんだっ」
と足は速いのだろうが、丁寧に動く後輩に向かって叫ぶ。

 騒ぎを聞きつけてか、出てきた旅館の法被を着た男に、茉守が、
「すみません。
 ちょっとお伺いしたいことが」
と話しかける。

「てめっ、今、どっから出てきた~っ!?」
「お前、軽く追い抜かれたぞ、マグマッ」
と追いついた二人は揉めているが。

 特に誰とも争う必要のない茉守は、身の軽さをいかし、周囲をよく見て、最短距離を走っただけだった。

 ニートは走る気もなく、倖田にいたっては、もう此処まで連れてきただけで、俺の役目は終わった、と言わんばかりで。

 二人とも車の側からこちらを見ている。

「直接、その女性と話した従業員たちは、今、庭で警察の方と話しています」
とその番頭さんみたいな雰囲気の男が言う。

 どうやら、近くの署の刑事たちが先に着いて、話を聞いているらしい。

 結局、全員で急いだ。

 広い庭で事情聴取をしていた二人の見知らぬ刑事たちが、こちらの勢いに驚いて振り向く。

「なんなんだ、あんたらはっ」

「探偵です」
「警察です」
「政治家です」
「墓守です」
「女子大生です」

「なんか違うの、いっぱい混ざってるぞっ」

 そう言われ、最初は探偵だと名乗ったマグマが言いかえる。

「坊主です。
 もう一度、今の証言を」
とその女性従業員たちに向かい、言った。

「いや、坊主が訊いてくんの、おかしいだろっ」
と年長らしき刑事が声を荒げる。


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