神の住まう島の殺人 ~マグマとニート~

菱沼あゆ

文字の大きさ
29 / 75
海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)

女を見る目がない男

しおりを挟む
 
「殺されたのよ、私の心が!
 道を訊いたら、教えてくれたから!」

 全員が、
 ――!?
という顔で立ち止まる。

 だが、マグマの手がちゃんと、倖田の手にナイフが当たる前に女の腕を捕らえていた。

「道を訊いたら、顔を近づけて、親切丁寧にニートさんが教えてくれたからっ。

 私の心はあの日から、あなたでいっぱいになった。

 お願いっ。
 私の物にならないのなら、私と一緒に死んでっ」

 女の細腕を捻り上げ、ナイフを落とさせたあとで、マグマがニートに向かい言った。

「お前、もう何処の女にも道を教えるな……」

「なんで顔近づけて教えたんだ」

 ナイフを拾いながら、遅れてきた佐古が問う。

「……目が悪いから」
とニートは言った。

「島の地図が細かすぎるんだろ。
 たいした史跡もないのに。

 この女が描く地図くらいザックリわかりやすく描いてありゃいいのに」
と犯人、犯人、くらいしか今は描いてない茉守の地図を突然、マグマが称賛する。

「大丈夫ですか?」
と突っ立ったままニートに言う茉守を見、倖田が、

「いや、お前、ほんとにそう思ってるかっ!?」
と叫んだ。

「いや、動けんだろうよ、こんな場面で」

 俺たちと一緒にすんな、と佐古が彼女を連れていきながら言う。

 おい、とマグマがニートに不満げに呼びかけた。

「お前、なんで途中から逃げなかった。

 ……殺されたからって言ったからだろう」

 ニートは答えない。

 連れられていく女を見ながら茉守は言った。

「あの人、昨日島に来てニートさんに道訊いて、今日殺しに来たわけじゃないですよね」

 じゃあ、橋なくても、災厄渡ってきてたじゃないですか、と。
 

「なるほど。
 『ツギ ハ オマエダ』でしたね」
と連れ去られていく女を見ながら言う茉守の横顔を見ながらニートは、

 ほんとうに、こいつ、ロクなこと言わないな、と思っていた。

「……他に俺に言いたいことはないか」
と訊いてみる。

 茉守は振り返り、その完璧に左右対称な顔で自分を見つめ、言ってきた。

「ニートさんは女を見る目を養うべきです」

 倖田が、
「道教えただけの女がいきなり思い詰めて襲いかかってくるとか思わないだろ」
とかばってくれる。

 自分を見つめる茉守に、女を見る目ね……と思いながら、ニートは言った。

「とりあえず、お前は怪しい」

「そこは正解です」

 茉守は笑いもせず、あっさりそう認めた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ
ホラー
 変遷していく呪いに終わりのときは来るのだろうか――?  突然、英嗣の母親に、蔵を整理するから来いと呼び出されたり、相変わらず騒がしい毎日を送っていた七月だが。  ある日、若き市長の要請で、呪いの七竃が切り倒されることになる。  七竃が消えれば、呪いは消えるのか?  何故、急に七竃が切られることになったのか。  市長の意図を探ろうとする七月たちだが――。  学園ホラー&ミステリー

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...