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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)
片付かない部屋
しおりを挟む「ちょっと一から考え直してみるか」
母家の縁側にみんなで腰掛け、考える。
さっとお茶を淹れてくれたニートを見ながら、
ほんとうによく働く、気の利くニートの人だ……、
と茉守は思う。
空気を入れ替えるためか。
留守のときも、ずっと障子が開け放してあったらしいマグマの部屋を眺めながら茉守は言った。
「マグマさんの部屋、物が多いですね」
「片付けないし、捨てないから増えてく一方だよな」
と倖田がごちゃついたマグマの部屋を見る。
「この間、あの物が山積みの机から、高校のとき俺がアメリカ土産でやったスナック菓子の袋とやらが出てきてビックリしたぞ」
「あの国の菓子はなんでああすごい色なんだろうな」
と呟いたマグマに、
「そんな部屋にずっと居て具合が悪くなりませんか?」
と茉守は訊いてみた。
倖田が大真面目な顔で言う。
「こいつに部屋を散らかさないようにさせようと思ったら、生命活動を停止させるしかない」
「マグマさんの方がニートさんより廃人のようですね」
と茉守が言うと、倖田がちょっと笑う。
ニートの離れは、もちろん、きっちり片付いているようだった。
マグマがチラと茉守を見て、言ってきた。
「お前の部屋はなにもなさそうだな」
「そうですね。
生命を維持するのに必要なものしかないです」
どんなものだ……?
という顔で、ニートと倖田が見る。
彼らの頭の中の中の自分の部屋は、ガランとなにもなく。
怪しい点滴とか、栄養ドリンクとかが、ぽつんと置いてありそうだ、と茉守は思う。
「ある程度の家具はありますよ。
家具付きの部屋を借りてるので。
……あ、そういえば、生きていくのに特にいらないもの、部屋にありました」
なんだ? とマグマが見る。
「100均で買った小さなクマのぬいぐるみです」
それを言うのに、ちょっと抵抗があった。
こんなもの買ってどうすんだと思ったのに。
可愛い、と思ってしまって買ってしまったのだ――。
「いらないものだと思ったんですけどね。
それがあるだけで、部屋の中が意外にも華やいで……
ちょっと嬉しいような気がしました」
「……クマが好きなのか?」
いきなり、マグマがそう訊いてきた。
「そうなんですかね?」
と自分でもわからないように茉守は言う。
マグマは、すっくと立ち上がり、部屋の隅の方に行くと、中くらいサイズのクマのぬいぐるみを掘り出してきた。
「やろう」
と言う。
クマの近くに居たニートが咳込んだ。
「まず、はたけっ」
文句を言いながらも、面倒見のいいニートが――
面倒見が良すぎて、見知らぬ人の殺人に手を貸してしまったニートが、茉守のために、クマを手に庭に下り、離れた位置に行って、はたいてくれる。
「ぬいぐるみクリーナーとかあるといいんだが……」
と薄汚れた白いクマを見ながらニートが呟くと、
「あるぞ」
とマグマは今度は引き出しを開け、ゴソゴソし始める。
「なんであるんだ、そんなもの。
っていうか、こんな状態なのに、何処になにがあるのかわかってるのがすごいぞ」
と倖田は言ったが、マグマは、
「いや、何処になにがあるのかわからないから、日々、何度もあちこちひっくり返すんだ。
そういうときさ。
妙なものって、目につくだろ?
なんで此処にあるんだっていうような」
それで覚えてたんだ、とマグマは言う。
「それにしても、なんでぬいぐるみとかクリーナーとかあるんだよ。
別れた女のか」
と倖田が訊いていたが、
「いや、酔った勢いでやったUFOキャッチャーのぬいぐるみだ。
ぬいぐるみクリーナーは檀家の子がぬいぐるみが汚れたって言ってたから、買って綺麗にしてやったときの残りだ」
と言う。
「なんでも、とって置いてみるものですね」
茉守はそう呟きながら、ニートに綺麗にしてもらい、縁側に干されようとしているクマを見る。
クマはちょこんとお座りできるようだった。
「ありがとうございます」
「いや、いい。
その幸せを噛み締めて、ニートを殺すなよ」
とマグマは言う。
「茉守、でいいんだったな。
あの地図を出せ。
お前、事件に関しても、いろいろ描き込んでたろ」
「いやあ、一回消したんで」
と言いながら、茉守はカバンから、ゴソゴソあの白地図を出してくる。
そこには「刺された人」「転がされた人」「橋の上の人」「犯人」「犯人」「犯人」しか書いていなかった。
「……なんの役にも立たねえな。
なんだ、この犯人って。
お前、犯人わかってんのか」
「いえ、だから、此処に犯行時居たのかなってだけですよ」
とても神の島の地図とは思えねえな、と呟いたあとで、マグマが言う。
「そういえば、前は、墓石みたいなニートの地図記号が大量に描いてあったが……」
「ああ、ニートさんの出現した場所に印をつけてた奴ですね。
ニートさんが大体この辺りに現れるというのを知っておきたかったので。
ちなみに、ニートさんを表すあの墓守の地図記号。
あれは、ほんとうは『葬るぞ』という意味を込めて作りました」
「怖ええだろっ」
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