神の住まう島の殺人 ~マグマとニート~

菱沼あゆ

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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)

お前は猫みたいだな

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「まあ、冷静に考えたら、親しい人の犯行だからってプチプチで包むとかないですよね」

「おっ、どうした、まともなことを言って」

 ロープウェイを降りるときに手を貸してくれながら倖田が言う。

「だって、息苦しいですもんね。
 そんなもので包んだら」

「……いや、死んでるだろ、中の奴」

「でも、死んでも、すぐに魂が抜けないときもあるんですよ」

「どっちにしても、霊なんだから、息苦しくはないだろうよ」
と言う倖田に茉守は言う。

「いや~、生きてるときの感覚が残ってるときもあるみたいですからね」

 あれっ? と茉守は売店の方を見て声を上げた。

「いらっしゃいっ」
とかき氷屋さんが笑顔でお客さんに呼びかけている。

「かき氷屋さんの霊があそこに」

「いや、かき氷屋死んでないだろ」

「ああ、すみません。
 あの方、ずっと警察に拘束されてるイメージだったんで」

 幻かなあって、と茉守は霊だと思った理由を説明した。

「そんなわけあるか。
 かき氷のシロップが事件と関係あるかもわからない『ツギ ハ オマエダ』に飛んでたのと。

 かき氷屋……というか、売店の後ろで人が刺されてただけなんだから」

 茉守たちを見て、かき氷屋のおにいさんは、あっ、という顔をする。

「僕を犯人にしたがってる人っ」
と茉守を見て言う。

「そういうわけではありませんが……」
と困ったように言ったあとで、茉守は言った。

「あっ、そうだ。
 イチゴのかき氷ください。

 練乳たっぷりで」

「俺はレモン」

「マグマさんと同じですね」
と茉守が言うと、倖田は、

「じゃあ、メロンで」
と素早く言い換えていた。
 

 ふわふわのかき氷を食べながら、茉守は土産物のいっぱい飾ってある店内を見回していた。

 そんな茉守を見て倖田が言う。

「猫みたいだな」
「……何故ですか?」

 なんかお前は、いつも人と違うところを見ている、と倖田は言う。

「この島って、神の島なので。
 死体や墓を穢れとして嫌うじゃないですか。

 でも、霊はあちこちに居るんですよね」

 霊は穢れではないのでしょうか? と茉守は疑問を口にする。

「霊見てたのか……。
 まあ、大半の人間には見えてないからいいんじゃないのか?

 でも、おかしなもんだよな。
 穢れだ、災厄だと騒ぐ年寄りたちには、霊もなにも見えていないんだから。

 あいつらには、ほんとうにこの島に神様が居ても見えないし。
 なにが神の威光なのかもわからないだろうよ」

 そんなものかもしれないですね、などと語っているうちに、ふわっふわのかき氷はなくなっていた。

「ああ、一瞬で食べてしまいました。
 行列するお店のかき氷と同じくらい美味しいのに、行列してないのがいいですね。

 ところで、倖田さん、鏡ってお持ちですか?」

「持ってるが、お前は持ってないのか、女子」

「身元がバレないよう、極力、物持って来なかったので」
と言う茉守に、

「いや、鏡で身元がバレるか!?」

 小学生みたいに鏡からハンカチまで名前書いているのか、お前はっ、と言う。

 だが、折り畳みの小さな鏡を貸してくれた。

 政治家たるもの、いつも身だしなみに気をつけているらしい。

 茉守は鏡で顔の方を見てみる。

 いろいろ妙な表情を作っていると、
「……なにやってんだ」
と言われた。

「いえ、もう大丈夫です。
 ありがとうございます」

 すぐに鏡を返すと、倖田は、
「今の百面相、なんの意味があるんだ」
と呟いていた。


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