神の住まう島の殺人 ~マグマとニート~

菱沼あゆ

文字の大きさ
45 / 75
海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)

正義ってなんなんでしょうね?

しおりを挟む
 
 その観光客たちは礼をみんなに言いながら、倖田とまた握手をし。

 何故か、ニートともし、ついでにマグマともして、去っていった。

「いや、僕はっ!?」
とかき氷屋さんが叫ぶ中、ニートが茉守を見下ろし、訊いてくる。

「なんで今、俺たちに頼まなかった?」

「ニートさんが撮ると、私が撮ったのと同じになるからです」

 霊が写るかもしれないと茉守は言う。

「あと、マグマさんは壊しそうだからです」

「……さすがに、あの握力でスマホを握りつぶしたり、とかはないだろうが。
 果てしなく連写するとか。
 つかんだだけで、あの熱量で、データが飛ぶ、とかはありそうだよな」
とニートは遠い目をして呟いていた。
 

 丁重にファンで有権者な人たちを見送ったあと、倖田がひとつ伸びをして言う。

「じゃあ、俺は戻るが。
 くれぐれもみんな暴走するなよ」

「なにを偉そうに。
 キレたら一番暴走するくせに」
とマグマがいちゃもんをつける。

「文化祭直前に、やっぱり、他校からバンドメンバーを招くのは……とか言い出した教頭を逆さ吊りにしかけたの、お前だよな?」

「だって、俺、あいつのギター聴きたかったんだよっ」
と倖田はよくわからないキレ方をする。

「倖田さん、帰ってしまうんですか?」
と茉守がちょっと困ったように問うと、倖田はちょっと笑って言う。

「なんだ、寂しいのか?
 相当変わっているとはいえ、お前ほどの美女に寂しがられると、嬉しくないこともないな」

「いえ、そうではなくて。

 すみません。
 もう一度、鏡貸してください」

 またかよっ、とキレながら、鏡を渡してくる倖田に、

 逆さ吊りにされなくてよかった、と思いながら、茉守は言う。

「すみません。
 他の人は絶対、持ってなさそうなんで」

「お前、それ、俺たちに失礼だろ」
と言うマグマに、

「では、マグマさんたち、鏡お持ちなんですか?」
と訊いてみたが、二人は沈黙する。

「あ、でも、マグマは中学のときは持ってたよな、鏡」
と倖田が言い出した。

「他校のヤンキーに目潰し食らわすのに」

「この島にヤンキーとかいらっしゃるのですか?」

「本土のヤンキーに決まってんだろがっ。
 だが、島にも暴走族とか居なくもないぞっ」

 神の島、莫迦にすんなよっ、とマグマが不思議なキレ方をする。

 いや、別にそこは居なくてもいいのでは……と思いながら、茉守は鏡に向かい、百面相したあとで、

「ありがとうございました」
と倖田に鏡を返した。

「……なんなんだ、それは。
 美容体操か?」

「そんな感じです」
と茉守が言うと、じゃあ、あとはトイレの鏡でやれよ、と倖田は言う。

「そうします」

 茉守はまた律儀にロープウェイを使って下りていく倖田を見送った。

「倖田さんがロープウェイで死体見つけたりしたら、営業の邪魔だって言って、捨てそうですね」

「いや、客寄せに置いたままにしとくかもしれんぞ、あいつなら」
とマグマが言ったとき、さっきから黙ってこちらを見ていたニートが、

「イチゴシロップ、食べてみたのか」
と食べたところも見ていないのに訊いてくる。

「はい」

 どうだった? と問われ、

「イチゴなのでわかりにくいですが、まあ、わかりますかね?
 そして、一時間近く経ちましたが、今でもまだわかりますね」
と茉守は答えた。

「なんの話だ」
と問うマグマに茉守は言う。

「死体だったら、すぐにわかったと思うんですよ。
 でも、死んでなかったから、確認されなかったのではないですかね?」

 うん? という顔をマグマがした。

「ところで、署長さん以外、不自然なくらい身元が割れないですよね。
 今回の被害者の方たち」

「そうだな」

「みなさん、徹底して、おのれの素性を証明するものを持っていなかったからですね。
 私みたいに」

 私はニートさんを殺しに此処に来ました、と茉守は言う。

「もしかして、被害者の方々もそうだったのでは? と思ったのですが」

「署長を除く二人は人を殺しに、この神の島に渡って来たって言うのかよ。
 じゃあ、あの二人をやった奴は正義の味方か」

「……なにが正義なのか、私にはわかりません。
 そんなもの習わなかったので」

 お堂の方を見ながら茉守はそう言った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ
ホラー
 変遷していく呪いに終わりのときは来るのだろうか――?  突然、英嗣の母親に、蔵を整理するから来いと呼び出されたり、相変わらず騒がしい毎日を送っていた七月だが。  ある日、若き市長の要請で、呪いの七竃が切り倒されることになる。  七竃が消えれば、呪いは消えるのか?  何故、急に七竃が切られることになったのか。  市長の意図を探ろうとする七月たちだが――。  学園ホラー&ミステリー

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

処理中です...