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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)
正義ってなんなんでしょうね?
しおりを挟むその観光客たちは礼をみんなに言いながら、倖田とまた握手をし。
何故か、ニートともし、ついでにマグマともして、去っていった。
「いや、僕はっ!?」
とかき氷屋さんが叫ぶ中、ニートが茉守を見下ろし、訊いてくる。
「なんで今、俺たちに頼まなかった?」
「ニートさんが撮ると、私が撮ったのと同じになるからです」
霊が写るかもしれないと茉守は言う。
「あと、マグマさんは壊しそうだからです」
「……さすがに、あの握力でスマホを握りつぶしたり、とかはないだろうが。
果てしなく連写するとか。
つかんだだけで、あの熱量で、データが飛ぶ、とかはありそうだよな」
とニートは遠い目をして呟いていた。
丁重にファンで有権者な人たちを見送ったあと、倖田がひとつ伸びをして言う。
「じゃあ、俺は戻るが。
くれぐれもみんな暴走するなよ」
「なにを偉そうに。
キレたら一番暴走するくせに」
とマグマがいちゃもんをつける。
「文化祭直前に、やっぱり、他校からバンドメンバーを招くのは……とか言い出した教頭を逆さ吊りにしかけたの、お前だよな?」
「だって、俺、あいつのギター聴きたかったんだよっ」
と倖田はよくわからないキレ方をする。
「倖田さん、帰ってしまうんですか?」
と茉守がちょっと困ったように問うと、倖田はちょっと笑って言う。
「なんだ、寂しいのか?
相当変わっているとはいえ、お前ほどの美女に寂しがられると、嬉しくないこともないな」
「いえ、そうではなくて。
すみません。
もう一度、鏡貸してください」
またかよっ、とキレながら、鏡を渡してくる倖田に、
逆さ吊りにされなくてよかった、と思いながら、茉守は言う。
「すみません。
他の人は絶対、持ってなさそうなんで」
「お前、それ、俺たちに失礼だろ」
と言うマグマに、
「では、マグマさんたち、鏡お持ちなんですか?」
と訊いてみたが、二人は沈黙する。
「あ、でも、マグマは中学のときは持ってたよな、鏡」
と倖田が言い出した。
「他校のヤンキーに目潰し食らわすのに」
「この島にヤンキーとかいらっしゃるのですか?」
「本土のヤンキーに決まってんだろがっ。
だが、島にも暴走族とか居なくもないぞっ」
神の島、莫迦にすんなよっ、とマグマが不思議なキレ方をする。
いや、別にそこは居なくてもいいのでは……と思いながら、茉守は鏡に向かい、百面相したあとで、
「ありがとうございました」
と倖田に鏡を返した。
「……なんなんだ、それは。
美容体操か?」
「そんな感じです」
と茉守が言うと、じゃあ、あとはトイレの鏡でやれよ、と倖田は言う。
「そうします」
茉守はまた律儀にロープウェイを使って下りていく倖田を見送った。
「倖田さんがロープウェイで死体見つけたりしたら、営業の邪魔だって言って、捨てそうですね」
「いや、客寄せに置いたままにしとくかもしれんぞ、あいつなら」
とマグマが言ったとき、さっきから黙ってこちらを見ていたニートが、
「イチゴシロップ、食べてみたのか」
と食べたところも見ていないのに訊いてくる。
「はい」
どうだった? と問われ、
「イチゴなのでわかりにくいですが、まあ、わかりますかね?
そして、一時間近く経ちましたが、今でもまだわかりますね」
と茉守は答えた。
「なんの話だ」
と問うマグマに茉守は言う。
「死体だったら、すぐにわかったと思うんですよ。
でも、死んでなかったから、確認されなかったのではないですかね?」
うん? という顔をマグマがした。
「ところで、署長さん以外、不自然なくらい身元が割れないですよね。
今回の被害者の方たち」
「そうだな」
「みなさん、徹底して、おのれの素性を証明するものを持っていなかったからですね。
私みたいに」
私はニートさんを殺しに此処に来ました、と茉守は言う。
「もしかして、被害者の方々もそうだったのでは? と思ったのですが」
「署長を除く二人は人を殺しに、この神の島に渡って来たって言うのかよ。
じゃあ、あの二人をやった奴は正義の味方か」
「……なにが正義なのか、私にはわかりません。
そんなもの習わなかったので」
お堂の方を見ながら茉守はそう言った。
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