神の住まう島の殺人 ~マグマとニート~

菱沼あゆ

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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)

国家権力を振りかざすな

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「てめーっ、乱暴なんだよっ。
 俺捕まえたときも、あそこまで痛めつける必要なかったろっ」

「いやいや、お前が逃亡しようと暴れたからだ」

 不可抗力だ、とマグマは言うが、なにも不可抗力でなかっただろうことは、想像に難くない。

「よし、お前、手錠かけろ」
と帆村に佐古が言う。

「えっ? いいんですかっ?」

 ありがとうございますっ、と帆村はペコペコする。

「刑事になってから、初逮捕ですっ。
 ありがとうございますっ」
と手柄を譲ってもらった帆村は、マグマとその下で押し潰されている男にも頭を下げていた。

「なんでだよっ。
 ちょっと脅そうと思っただけじゃんかっ。

 死ねっとか言ってなかったろっ。

 こいつにナイフ見せようと思って駆け寄ってきただけかもしれねえだろうがっ」

「ナイフを所持して、わざわざ島までやってきたことからいっても、計画的犯行だろ」
と言う佐古に男は叫ぶ。

「いやいやいやっ。
 たまたま、山頂に来たら、こいつがいて、たまたまナイフ持ってたから、ちょっと腹いせに脅そうと思っただけなんだよっ。

 ほんとだってっ。

 橋の開通式のニュース見て、へー、簡単に渡れるようになったんだって思って来ただけだしっ」

 佐古が、
「今すぐ落としてこい、橋」
と帆村に言う。

「それにしたって、山頂までお前、歩いて来たろ。

 ロープウェイにも乗らずに。
 死ぬほどしんどいのに」

 ……死ぬほどしんどかったんだ、佐古さん。

「人目につかずに、そっと山道を上がってきて。
 気配を消し、マグマに近づこうとしたんじゃないのか」

 いや、めちゃくちゃ雄叫び上げながら来ましたよ、この人、と茉守が思ったとき、男が言った。

「なに言ってんだ、ロープウェイで上がってくる奴より、登山客の方が多いぞっ。

 目につくだろうがっ」

 ロープウェイを使わない客の方が多いと聞いて、佐古が嬉しげに、ふっと笑う。

「苦労して登った山頂のかき氷はサイコーだって、歩いてるミナサンが言ってたぜっ」

「なに登山客と交流はかってんだ」

 マグマが手錠をかけても、まだ下に敷いている男を小突く。

「ともかく、俺は山頂まで、いい空気吸いに来ただけなんだよっ。

 俺みたいな奴は、癒されに島を訪れたり、予約してる自転車で爽やかに島一周のサイクリングとかしちゃいけねえのかよっ」

「佐古、こいつ、島一周したいらしいぞ。
 すごい塗装してあるお前のバイクで付き合ってやれ」

 実家の納屋にあるだろ、と言ったあとで、マグマが茉守に教えてくれる。

「茉守、こいつが島の暴走族、その一だ。
 すぐに島を一周してしまうので、バイクでグルグル回ってた」

「そんな奴と一緒に走れるか~っ」

 俺は、のんびり景色を見ながら走りたいんだっつってんだろっ、
と男がわめく。

「ともかく、お前は逮捕な。
 そもそも、ナイフをちょっと持ってるっておかしいだろ」
と時計で逮捕の時刻を確認しながら、佐古が言う。

「いや、お前らこそ、持ってそうだろっ」
と男はマグマたちに叫んで、

「俺は拳で充分だ」
とマグマに言われ、

「俺はこれで充分だ」
と佐古に手錠を見せられる。

 国家権力を振りかざすなっ。
 横暴だっ、と叫ぶ男に向かい、マグマが説教をはじめる。

「飛び道具持たなきゃ勝負できない男になるなよ」

「いや、お前、持ってただろうが、鏡」
とニートがマグマに言う。

「鏡?」
と訊き返した佐古にニートが説明した。

「さっき、こいつが倖田に鏡借りてたんだよ。
 それで、昔、マグマが鏡でヤンキーに目潰し食らわしてた話になって」

 そうだった、そうだった、と懐かしそうに膝を叩いたあとで、佐古は真顔になり、茉守に問う。

「いや、お前、鏡持ってないのかよ」

「私も飛び道具は必要ないので」

「……鏡、普通の人間は目潰しに使わないからな」

 そうニートが横で呟いていた。

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