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白地図と最後の事件
かき氷屋さんの推理
しおりを挟む「僕も最後の女性の事件について、考えてみました」
ようやく客が引けて、手が空いたらしいかき氷屋が言い出した。
早く事件を解決した方がいろいろと巻き込まれずに済んで無難、と判断したようだった。
「彼女は島民でなかったので殺されたとか」
「いや、何故ですか」
それだと私も殺されます、と茉守が言う。
「いや、僕ももともと、此処の人間ではないんですけどね。
……大抵のミステリーでは、閉鎖的な田舎に迷い込んだよそ者は殺されるんですよ」
かき氷屋は声をひそめてそう言ったが。
燦々と太陽が照りつけ、暑すぎてかき氷が飛ぶように売れる山頂では、閉鎖的な感じは何処にもなかった。
「お前、此処に来てからどのくらいになる?」
とマグマがかき氷屋に訊く。
かき氷屋は指折り数えるような顔をしたあとで、
「二年くらいになりますね?」
と言った。
「……全然、殺されてねえじゃねえか」
二年も居たら、もう島民だろ、とマグマは言う。
「じゃあ、私も二年は此処に居ても殺されないですかね」
と茉守が言うと、
「それ、島の誰が殺す予定なんだ?」
とマグマが問う。
……マグマさんですかね?
とかき氷屋と二人、マグマの無駄に太い腕を見た。
男を署に引き渡したあと――
とは言っても、ちょっと署で説教するくらいで終わらせるつもりだったが、
佐古は橋を渡り、島に戻ってきていた。
まあ、未遂だったし。
相手がマグマだったんで、なんか警察にも非があった気がしてくるからな。
それにしても、倖田の功績になるから、あまり認めたくはないが、便利だな、橋……。
ロープウェイは乗らずに済むが、橋は使わずにはいられない。
山は歩いて上がればいいが、海は簡単には泳いで渡れないからだ。
船は出港まで待たないといけないし、さっとは移動できない。
それに、橋のせいで、運行本数も少なくなっている。
橋を渡ったあと。
なにか冷たい物でもと思い、最近できた道の駅で帆村と車から降りると。
観光客らしき女性たちが山頂の写真がどうとか言って、騒いでいた。
山頂の写真というのが気になり、声をかけてみる。
「すみません。
山頂の写真がどうかされたんですか?」
警察の人間だと言わなかったことで、ナンパだと思われなかっただろうかと思ったが。
スマホの写真に興奮気味の彼女たちは特に疑わなかったようだ。
「見てください、これっ。
端におかしな物が写ってるんです」
……倖田じゃねえか。
彼女らは何故かお堂の前で、倖田と写真を撮っていた。
横から覗き込んできた帆村が、
「あっ、なんか霊が見切れてますよっ」
と叫ぶ。
いや、見切れてますよって。
霊が見切れてるっ、とか文句言ってこないだろうよ、と思いながら、佐古はマジマジとその写真を眺めた。
画面の端、お堂とかき氷屋の間くらいの位置に、何処かへ歩いていこうとしている感じの白っぽい女性の姿が少し写っている。
「……早く動いてる人がブレて写ったんですかね?」
そう佐古は言ってみたが、いや、霊に違いない、と彼女たちは主張する。
「だって、そういえば、このあと撮った古戦場みたいなところの写真には、うっすら戦国武将みたいな人が写ってるんですっ」
「誰が撮ったんですか?」
と佐古は訊いてみた。
はい、とショートカットの女性が手を上げる。
「私のスマホなんで。
戦国武将は私が撮りました」
……戦国武将は撮りましたってなんかすごいな、と思いながら、佐古が、
「では、他の写真は?」
と問うと、
「山頂のかき氷屋さんが撮ってくださったんです。
最初は倖田先生と一緒にいらした黒髪の綺麗な人が撮ってくれようとしたんですけど、かき氷屋さんと交代されたんです」
黒髪の綺麗な人……。
あいつか、と思ったが、
「役所の菊池さんとか言ってましたね」
と彼女は言う。
いつ、役所の人間になったんだ、菊池茉守……。
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