七竈

菱沼あゆ

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秋 プロローグ ~学園の怪談~

どっちなのかな?

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「失礼しまーす」

 その後、七月たちはあれだけ言われたにも関わらず、結局、全員で生物室に来ていた。

 準備室の廊下側のドアは鍵がかかっていたが。

 いやいや、生物室側からなら入れるんじゃないかと弥生が強く主張するので、とりあえず、来てみたのだが。

 理科系の特別教室って、なんか独特の匂いがあるよな~と思いながら、七月はぐるりと、日の落ちてきた室内を見回した。

 南側の隅。
 束ねてあるカーテンの手前に人影が見えた。

 ぎくりとしたが、次の瞬間には見えなかったところを見ると、霊だったのだろう。

 ほっとする。

 誰も居ないはずの場所にいきなり人に立っていられるよりは、霊に立っていられる方がいい。

 霊が消えたり現れたりするのは、当たり前のことだからだ。

「槻田くんが居た頃はありましたよ」

 急に耳許でした声に、どきりとする。
 三村だった。

 彼は首をかしげ呟く。

「槻田くん……

 槻田くんねえ」

「なに?」
と訊いたが、彼は、

「うーん、どっちなのかな」
とひとり呟いている。

 聞かせたいのか聞かせたくないのかわからない呟きだった。

 居るのか居ないのかわからない霊のようだが。

 こちらに何かを問題提起しているのに違いない。

「三村くん~」
とそれこそ、背後から忍び寄る霊のような声を上げ、こちらに背を向けた三村の右肩に、がっしりと手を置く。

「なんなのよ。
 言いたいことがあるなら、はっきり言って~」

 そのまま背後から首に腕を回し、軽く締める。

 厭味も含めて、ズバズバ物を言ってくる三橋の方がこういうときは扱いやすい。

「や、やめてよ、矢部さんっ!
 殺されるから! 三橋に!」

 悲鳴を上げる三村に、
 何故に三橋くんに?
と思ったとき、

「開いてるわよ!
 こっち、早く!

 また誰か見回りに来るかもしれないから!」
と半分、準備室の戸口に入りかけた弥生が振り返り、手招きをしている。

 みんなの姿がないところを見ると、もう入ってしまったのだろう。
 こちらの手がゆるんだ隙に、三村が慌てて逃げ出した。

 なんとなく、友だちの家で見た光景を思い出す。

 透明なパイプの中で寝ていたハムスターが、他のハムスターに後ろからつかれて、藁の上に落ちたとき、こんな風に慌ててたなあ。

「矢部さん……

 なに微笑ましげな目で僕を見てるの」

「いや、なんでもない。
 行こっか」
と三村の肩を叩く。

 とりあえず骨格標本を確かめるまでは、誰も帰りそうになかったので、素直に先を急ぐことにする。

 たいしたことは起こらないと思うが、一応、みんなに付いていた方がいいだろうと思う。

 この学園は七竈のせいか、少し磁場がおかしい。

 いや、逆なのか。

 磁場がおかしいから、あそこがおかしな場所になったのか。

『七竈の下を掘ったら呪われる―』

 もうすぐ夜が来る。

 七月は窓を振り返った。

 日の落ちた窓は、風に揺れる木の影を映していた。



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