七竈

菱沼あゆ

文字の大きさ
90 / 258
彷徨える人々

霊の世界のナナカマド

しおりを挟む
 
 
「そういえば、此処の七竈、どうなってんだろうな」

 いきなり地雷を踏むように言う三橋を七月は見上げた。

「平然とその話、振らないでよ」

「……言うまいかと思ったけど。
 気になるじゃないかよ。

 此処は言わば、霊オンリーの世界だろ?

 あの七竈はどうなってんのかなって、誰もが思うだろ。

 確かめずに帰るわけにはいかないだろうが、お前は」

 勝手に人の気持ちを代弁するな、と思いながらも、その言葉が迷う背を押してくれたのも確かだった。



「なんだ。
 出れんじゃねえか、外」

 校舎の外に出た三橋はそう呟き、建物を振り返りかけてやめた。

「出れないと思ってたの?」
と三村が訊く。

「普通、校舎に閉じ込められたりするんじゃないのか? こういうの」

「閉じ込められたきゃ、あんた一人で閉じこもってなさいよ」
と七月が言うと、舌打ちし、

「そうじゃねえだろ。
 外に出られたんだから、このまま家にも帰れるんじゃないかって言ってんだ」
と言う。

「そりゃ帰れるだろうが――」
と言いながら、槻田は、今、三橋が振り返らなかった校舎を振り返っていた。

「生きた人間は居ないと思うぞ。
 此処は次元の違う世界だから。

 見たこともない住人や先祖にでも会いたければ帰って来い」

「……結構だ。
 墓参りには行ってるから」

 まあ、わざわざ自分の家にどんな霊が居るのか、確かめに行く必要もないだろう。

「ところで、なんでさっきから後ろ振り返らないの? 三橋」
と三村が問うた。

「別に。
 振り返りたくないからだ」
と素っ気無く言うが、

「振り返って、窓にいっぱいの白い手が張り付いてたり、手招きしてたりしたら厭だからでしょう?」
と七月が笑ってやると、無言になる。

 何故、わかる? という顔で横目にこちらを見下ろした。

「いや、今、ほんとにそういう状態だから」

 そう言い、七月は親指で背後の校舎を指差す。

「壮観だね」
と三村は校舎を見上げて笑っていた。

 距離があり、自分に向かって来ない霊なら平気らしい。

「さて……行くかな」
という声が小さくなる。

「七月」
と槻田が西側を見ながら言った。

「お前は此処で、三村たちと待ってろ」

「え。
 なんで?」

「見てくるだけなら、お前が行く必要はない。
 少し待っていろ」

 迷うことなく行きかけるその腕を掴んだ。

「待ってよ、行くわ。
 私が行かないで誰が行くのよ。

 ……貴方にもあそこで確かめたいことがあるのかもしれない。

 でも、私にもきっと。
 あそこでしか見えない真実がある――」

 間近に彼を見上げ、その瞳をとらえる。

 気を使っていってくれているのはわかっているが、今、反論されたくなかった。

 いつまでも逃げていても仕方がない。

「あの、僕たちも行きますからね」
と三村が言った。

「こんなところで残される方がたまらないから」

 三村の言葉を聞きながらも、槻田の腕を掴んだまま、そこを見ていた。

 自分が握っているせいで、スーツに寄った皺を見つめ、大きく息を吸う。

 顔を上げ、七竈のある校庭の西を見た。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

処理中です...