94 / 258
彷徨える人々
力が半減したようだ
しおりを挟む「私に何か用か」
ふいにした声に振り返った七月は、狩衣姿の男を見、
「なんで、しょっぱなから偉そうなの?」
と訊いた。
「助けに来てやったのに、その言い草か。
まあ、助けられる保障もないが。
何故かパンダをやめたら、力が半減したようだ」
じゃあ、ずっとパンダやっとけよ、と思いながら、槻田の横のその男を見上げる。
夏の終わりに起こったある事件。
最強パンダはパンダであることをやめた。
何かが彼の中でふっ切れたらしい。
しかし、校舎の中を、パンダ姿でうろつかれるのも、陰陽師姿で歩かれるのも、大差ないような気がするが。
どっちも七竈以上の学校の怪談を生み出しそうだ。
元に戻ったパンダは繊細で奇麗な顔立ちをしていて、意外だった。
もっとこう、ゴツイおっさんみたいなの
を想像していたのに。
人相が悪いから愛嬌のあるパンダになったと本人は言っていたのだが。
しかし、まあ、この顔、或る意味、小汚いおっさんより受け入れがたい。
にやりと笑うと、その酷薄そうな表情にぞくりとしてしまう。
ちょっと頼る気にはならない。
「ほれ、行け、七月。
後ろから付いてってやる」
閉じた扇をこちらに向かって突き出し、はよ、行け、というように上下に振る。
『憑いてく』だろうが。
ってか、後ろから?
確認するように槻田を見たあとで、息を吸い、校舎の壁に寄り添うように引っ付く。
ひんやりとしたコンクリートの感触が肩に伝わった。
手を角にかけ、勢いつけて、ひょいと覗く。
暗闇にひっそりと七竈の木は立っていた。
この間まで、真っ赤な実だけが遠目にも浮き上がって見えていたが、今は、全体的に紅葉している。
実は鮮やかな葉の色に埋もれてよく見えない。
さわさわとただ静かに七竈は揺れている。
七月は、ほっと息をついた。
「なんだ。
なんともないじゃない。
現実の七竈より、此処の方が静かってどういうことだろ」
と呟きながら、握り締めていたコンクリートの壁から手を離した。
もしや、此処で私が見ていたものは、私にしか見えない幻だったのだろうか。
だから、霊が支配する、誰にでも霊の見える空間に来ると、何も見えないのかもしれない。
いや―― と夏の事件を思い出す。
昔から、自分以外にも、此処で霊を見ているものはいたようだ。
もしかしたら、自分の想念が作り出したものを感受性の強い他人が見ているだけなのかもしれないけれど。
納得いかないながらも、衝撃的な光景を見ずに済んだ安堵からか、笑みがこぼれる。
「行こっか。
ねえ、もう一度、夜の職員室覗いて見たくない?」
少しの間のあと、三村が笑顔で言った。
「急に余裕が出てきたね。
そうだ。
元の世界に戻る方法だけど、あのOLの人に頼んだらどうかな?
彼女が僕らを此処に連れてきてくれたわけだし。
もう一回接触するの、ちょっと怖いけどね」
「そうね」
と笑いながらも、足早に歩き出しながら言う。
「三村くん、気に入られてるんなら、貴方は此処に残ってって言われるかもよ」
三村と笑い合いながら、七月が元来た道を戻っていくのを槻田は見ていた。
そこから少し遅れて三橋が付いていっている。
ちらと三村が振り返った。
「……言ってもいいか?」
と横で極悪パンダ改め、陰陽師が言う。
わかってる――
と小さく呟くように言った。
笑顔の七月の、足許だけが速かった。
30
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる