七竈

菱沼あゆ

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懐かしい人たち

真冬のホラー

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 そうは見えないかもしれないが、再び逢えた東の姿に、三村は胸を熱くしていた。

 弥生などが今の顔に気づいたら、

「あんた、なに淡々としてんのよ!」
とキレそうな表情であることは自分でもわかっていたが、生まれつきなので、どうにもならない。

 百ちゃんもあんまり顔に出ないから、家系なのかな?
と思ったそのとき、

「七竈に呪い殺されたんだよ」
という声が耳に入った。

 みな気づいていないようだ。
 声の方に視線を向ける。

 英嗣が七月に向かい、話していた。

 槻田と英嗣は声も似ているが、どうやら、英嗣のようだった。

 まあ、死んでいるのは英嗣だし、槻田はああいう話し方はしないから、間違いないだろう。

 その槻田は二人が話しているのを黙って見ているようだった。

 彼らを遠巻きに見ていると、同じように、様子を窺っている人間が居るのに気づいた。

 佐竹だった。

 英嗣の方を見ている。

 自分と同じく、先程の彼の言葉が耳に入ったのかもしれないと思った。

 


「百花さんって、怖い話、好きなの?」

「え?」

 突然、そんな話を若いスタッフに振られ、百花は目をしばたたいた。

「いや、別に好きなわけじゃ――」

 先程の流れでそう思ってしまったのだろう。

「真冬のホラーってよくない?
 地元の怪談スポットを冬になったら巡りませんか?」

 最後の言葉は、井村に向けられたもののようだった。

「別に冬まで待たなくてもいいじゃねえか」
と井村は言う。

「だって、『真冬の』ってつけると、なんか格好いいでしょ?

 秋のホラーとか、秋の怪談特集とか、なんか間が抜けてないですか?」

「そりゃ、お前の個人的見解だろ」
と井村は苦笑していた。

 珈琲を手にデスクに腰を預けているひよりは、佐竹の霊とやらを見てから、元気がない。

 話にも入って来なかった。

「百花さん、番組企画して、レポートしてくださいよ」

「え?
 丸投げ?

 っていうか、私、学生時代にやってから、すごいブランクがあるんだけど」

 この地区のケーブルテレビが出来たのは、わりと最近だが、スタッフはみな素人ではない。

 地方テレビ局を定年退職したり、ひよりのようにそれぞれの理由で辞めていたものがほとんどだ。

「開局当時、面白かったですよ。
 始業時間とか自分たちで話し合って、好きに決められたりとか」

 そういう活気があって、自由な場に自分も立会いたかったかな、と思い、笑みがこぼれたタイミングで、井村が言った。

「じゃあ、冬だか秋だかにやるから。
 百ちゃん、下調べしといて」

「えっ!?
 もう決定ですか!?」

「最初の仕事が怪談だったら、そのままイメージつきそうですよね
 女優さんでも、ホラー女優みたいな人居るじゃないですか」
とスタッフが笑う。

 他人事かと思って~、
と思ったとき、井村が言った。

「最初はデカイ話がいいんだけど。
 この辺で一番怖い話っていうと――」

 ぎくりとした。

「やっぱ、七竈だろ」
「そ、それ以外でお願いしますっ」

 井村が言い終わる前に、慌てて言っていた。

「なんでですか?
 七竈にまつわる話なら、掃いて捨てるほどありますよ。

 インパクトも強いし。

 夏に起きた事件だって、七竈絡みだって聞きましたよ」
とスタッフが言う。

「あれは――」

 別に七竈の呪いで死んだわけではない。

 それにしても、事件の細かいところまで伝わっているとは、さすが田舎だ、と思った。

「あれは七竈の呪いで死んだわけじゃねえだろ」
と井村が口を挟む。

「七竈に呪われて死んだ人間には、特徴があるんだそうだ」

「特徴?」

 彼らの話に、ひよりがぴくりと伏せ目がちだった瞼を動かした。

「春に捕まって、拘置所で死んだ林葉ってセンセイ、居たろう?
 あのセンセイの親戚、わしの近所でさ」

「七竈の呪いだって話、ありましたね?」

「そう。
 センセイの死体にも、その呪いで死んだ証拠があったそうだよ」

「なんなんですか? それ」
と顔を上げ、ひよりが訊いた。

 井村はそれを受け、にんまり笑う。

「知りたかったら、百ちゃんと協力して、企画立てて。
 んじゃ」

 ごっそーさん、と百花の側にあったお盆に珈琲を置いて居なくなる。

「七竈で死んだ死体の特徴ねえ。
 初めて聞きましたね、そんな話」
とスタッフたちが話し出す。

「そもそもさ、七竈ってなんで呪われるんだっけ?」

「時代とともに、だんだん変わってきてるんですよ、それが」

「都市伝説みたいなもんか。
 ってことは、呪われるってのも、やっぱ眉唾もんかな」

「呪ってるものの気が変わってってるのかもしれないですよ」

 他のスタッフは笑っていたが、ひよりは笑っていなかった。

「……都市伝説の中にも真実はあるわ。
 何かがあったから、そういう話が生まれるのよ」

 そう呟き、お盆を手に取る。
 次の瞬間には、いつもの顔に戻っていた。

「はいはい。
 自分でコップ洗いたくない人は、今すぐ此処に載せて~!」

 みんな慌てて珈琲をあおり始める。

 こちらを見たひよりと目を合わせ、笑った。




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