七竈

菱沼あゆ

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懐かしい人たち

ガラスの向こう

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 佐竹はすりガラスの向こうを凝視する七月の顔を見ていた。

 ああしていると、いい顔してるのにな。

 何故、いつもは逃げているのだろう?

 彼女の中には未知のものに立ち向かおうとする力がある。

 それを封じている、その理由は――

 そんなことを考えながら、七月とガラス越しに向き合っている茶色い顔を見た。

 七月はそれが誰なのかわかったようだった。

 彼女ほどの力があれば、七竈の下で同じものが見れているはずなのだが。

 彼女はあそこで見えるものを全て拒絶しているので、視界に入っていなかったのだろう。

「此処に来ないで」

 七月は胸許に手をやり、祈るようにその影に向かい、訴える。

「来ないで、入らないで。
 上に上がって」

 真摯に訴えるその言葉は自分のためではない。

「私が上げてやろうか」

 七月の後ろに立ったものが居た。

 あの陰陽師だ。

 面倒くさそうに閉じた扇をガラスから覗く影に向けると、たすき掛けに切って見せる。

「私は霊も殺せるぞ。
 本来、無償では請け合わんのだが、お前には恩がある。

 ばっさり上げてやろう」

 七月はそこで小首を傾げるような仕草をした。

「まあ……許せない相手ではあるけど。
 死んでまで殺しちゃうのはどうかしらね」

 多少の憐憫れんびんの情を霊に対して感じているようだった。

 そのとき、七月の前に出たものが居た。

 東だった。

「先生――」

 七月は不安そうに東を見上げる。

 東は無言で、ガラスの向こうを見ていた。

「……矢部」

 そちらを見たまま、東は確かにそう呼んだ。

 七月が、はっとした顔をする。

「此処を開けろ。
 何故だか俺には開けられないが、俺はこいつと逢わなきゃならない」

「先生」

 開けられないのは、彼の霊体としての力のせいか。

 この向こうに居る存在を拒絶している真実の心のせいか。

「槻田」
と霊を見据えたまま、東は呼びかけた。

 槻田が身構える。

「思い出したんだ。
 俺は見たよ、七年前――。

 お前が予想している通りのものを」

 いつもあまり変わらない槻田の顔に緊張した表情が浮かぶ。

 東は振り返り、七月に言った。

「開けろ、矢部」

「――はい、先生」

 東の覚悟を見てとった七月は、取っ手に再び手をかけた。

 からりと軽くそれは開く。

 ガラスに寄りかかる形になっていた干からびた死体のような霊体が内側に倒れてくる。

 七月はあらかじめ、少し身を引いていた。

 霊体は東にもたれかかるように身体を投げ出してきた。

 干からびた顔の中の、そこだけ生きた人間のもののような眼がぎょろりと東の頬を間近に見上げる。

 東は動かずに言った。

「俺を連れて行け。
 それがお前の望みだろう」

 誰もが黙りこくる中、三村がひとり、呟いた。

 

「……林葉先生」
 



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