七竈

菱沼あゆ

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始まりの人

誰かの意思

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「なんでだか知らないけど。
 この学園さまよってると、いろいろ記憶が飛んでいくんだよ」
と後ろの机に手をつき、英嗣が言う。

「誰かの意思なのかね、とも思うんだけど。

 まあ、僕みたいに幾らさまよっても忘れないのも居るんだけどねえ、おにいちゃん」
とわざとらしく笑い、肩に手をかけ、払われていた。

 不思議なもので、英嗣の告白以降、二人の間にあった微妙な遠慮のようなものが消えていた。

 これでもう、何も隠さなくていいし、相手を憎んでもいい。

 そう腹をくくったあと、時間の経過とともに、二人ともサバサバしてきたようだった。

「……結局、お前が呪われてたってとこまでは当たってたじゃないか」

 未練がましげにも聞こえる口調で槻田が言う。

「でも、それで死んだってのは、間違ってたでしょ」
と返す英嗣。

 こっちも事件的には深刻なのだが、二人の態度的に深刻さを感じないので、やはり置いておくことにする。

「まあ――
 先生がお忘れなのなら、そのままでいいんですけど」

 無理に厭な記憶を掘り返すことはあるまいと、そう告げる。

 あの声が本当にひよりのものなら、ひよりに訊けばいいだけだ。

 今、現在、助けて欲しがっているのは、佐竹ではなく、ひよりなのだから。

 そのとき、くぐもった声がした。

「待てよ? 沢木?」

 一瞬、何処から聞こえたのかと思った。

「沢木ひより?
 アナウンサーのか?」

 声の主を見つめ、七月は、

「……はい、そうです」
と答えた。

 彼は口許に手をやり、少し考えていた。

「そういえば、いつか校舎内で見たことがある。

 何かの取材に来たのかと思ったが、そうでもないようだった」

「ひよりさんが?
 いつ頃です?」

「いつだったかは思いだせんが、授業も終わった夕方頃だったな。

 ふいに廊下に立ってたんだ。

 目を合わせると、まるでそこに居るのが当然のように、笑って頭を下げた。

 堂々としたもんだったから、たぶん、取材か何かだろうと思って」

 林葉は理性の戻った目許で言う。

 干からびたままだし、東に張り付いたままだが。

「聞いてないぞ」
と林葉を見下ろし、東が言う。

「誰にも言ってないからな」

「なんでだよ~っ」
と叫ぶ東は、ひよりに会いたかったようだった。

 いや、単にアナウンサーにか。

「何かの取材が来たんですかと訊くなんて、ミーハーっぽくて厭だろう?
 そのあと、タウンニュースなんかをチェックしても出てなかったけどな」

「どうして、あんたは、そう変なとこで格好つけなんだ!」

 ニュースチェックしてれば、一緒だろ! と叫ぶ。

「お前みたいに何もかも格好つけない奴も問題だ!
 理性がなくなって、ろくでもないことばかりしやがる!」

 いや、殺した人間にそれを言われるのもどうだろうな、と思った。

 最終的に、一番まずいところを踏み外したのは、林葉だし。

 そういう意味では、東の方がマシだったと……

 言えるだろうかな。

「金返せーっ!」

 ああ、別の事件に興味が移ったせいで、少し関係が改善したかと思ったのに。

 結局、生前の問題に戻っただけだった。

 百花は今、どうしているだろう、と先程の携帯を見ながら思う。





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