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神隠し
なんだろう、このこだわり
しおりを挟む「ひより?」
思ったより酒の進まない友人に、百花は呼びかけた。
ひよりは話に相槌を打ちながらも、何処かぼんやりしている。
「どうかしたの?」
「いや……」
と目線を落としたひよりは、一向に減らないグラスの日本酒に気づき、ちょっと笑って言った。
「あんたが呑まないのに、私だけが呑んでちゃ、やっぱり、悪い気がするし、盛り上がらないわよね」
そう言いはするが、進まない理由はそれだけではない気がしていた。
「そんなガラ?」
と軽く言い、笑ってみせる。
ひよりは頬杖をついて、壁に貼られた新メニューのどでかいポスターを見ていた。
「今度、ラジオに出るんだけどさ」
ひよりは今はほぼ、ケーブルだけに出ているが、一応、フリーのアナウンサーだ。
「局に居た頃の知り合いに呼ばれちゃってね。
世話になった人だから」
妙な間合いに何かの含みを感じて、その顔を見る。
ついに、局に戻る決心をしたのかと思ったが、ひよりは、そう簡単に一度した決意を翻すような女ではないことも知っていてた。
箸で手をつけないままだった突き出しをつつき、
「ま、聞いてよ。
九時からのやつだから」
と言う。
夜の? 朝の?
と思ったが、あまり突っ込めない雰囲気がある。
「……七月ちゃんってさ」
「ん?」
「可愛いわね」
「可愛いねえ……」
何が言いたいのかさっぱりわからないが、軽い内容のわりに、世間話とは思えない重い響きがあった。
甘辛く煮られた魚の子を口に入れながら、
「先生が好きなんだ?
因果なもんね」
ぼそりとそんなことを言う。
そこから先、何か続くかと思ったが、いきなり話は切り替わり、いつもの仕事の愚痴へと戻った。
今は同じ職場に居るので、前はただ聞いてあげるだけだったその話に深く相槌を打ってあげられる。
そのために、あの職場に入ったわけではないが、ちょっとだけ、嬉しかった。
それにしても――
なんだろうな。
ひよりのこの、七月ちゃんへのこだわりよう……。
『因果なもんね』
皿の中を見つめ、ぼそりと呟いたその表情を思い起こしながら、考える。
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