七竈

菱沼あゆ

文字の大きさ
192 / 258
神隠し

出現の法則性

しおりを挟む
 
 

 掘り起こそうと思っていた。
 それを捜しに来たのだから。

 だけど、その死体の主は今、起こしていらぬと、その仕草で告げていた。

 七竃の下にしゃがみ、素手で穴を掘ろうとした自分の手を彼は止める。

 七月は立ち上がり、いつの間にか地面から浮かび上がって来た男の顔を見下ろした。

 何も言わずに自分が埋まっているであろう穴を見つめる彼に少し笑うと、彼はこちらを振り仰いだ。

「言わないんですか?
 此処掘ったら、ぶっ殺すぞって」

 そう言うと、彼は困ったような顔で笑う。

 少しいつもの表情に戻っていた。

「大丈夫ですよ。
 掘ってみても、みっともなく腐ってたりとかしませんよ、此処なら」

 そういうことが理由ではないのだろうと思いながらも、そう言ってみせる。

 さて、と言い、七月は彼に背を向けた。
 手についた泥をはたきながら言う。

「じゃあ、とりあえず、焼却炉に戻りましょうか。
 ……早くこの場を去った方がいいし」

 全員の顔つきを確認する。

 自分には見えないが、まだ、七竃の下の『私』は戻って来ていないようだった。

 だが、おかしい。

 今までこんなことがあっただろうか。

「ねえ、パンダ」
と七月は振り返らずに呼びかける。

 蒼白い月光が七竃と自分の影を長く地面に落としていた。

「此処に誰かが死体を埋めたんでしょう?

 そのとき、『私』はどうしてたの?
 此処の『私』」

 ひとつ間を置き、パンダは言った。

「……出て来なかったな」

 その言葉に、槻田もパンダを見つめていた。

 槻田はもう聞いていたのだろうが。

「此処の『私』が現れなかった理由、ね。

 何か条件が合わずに出られなかったか。
 それとも出たくなかったか」

「出たくないってなんだよ」
と三橋が訊いて来る。

「わかんないけど……」

 いまいち歯切れの悪いこちらの言葉に被せるように三村が言った。

「人殺しが怖いとか?」

「自分がいつも此処で誰かを殺してるのに?」
と三橋が半笑いに反論する。

「確かに殺してるけど。
 あれ、願望なんじゃないの?

 きっとあの人、誰かを殺したいんだよ。
 ほんとに殺したわけじゃないと思う。

 だから、ああして繰り返してるんじゃない?」

「じゃあ、そこにほんとの人殺しが来て、怖くて逃げたのなら、もう出ないんじゃないか?」

「いや……」
と槻田は発言を止めるように小さく手を挙げると、思い出すように目を閉じて言う。

「さっきも元気に鎌振り回してしたぞ」

 うーん、困った『私』だ。

「消えたり現れたりの法則性がわからないわね。

 私、此処に残っていようかしら。
 今、居ないわけでしょう?

 どういう条件で現れるのかわかるかもしれないわ」

「莫迦なこと言ってないで、焼却炉に戻れ。
 林葉に会って、話を訊くんだろうが」

 そもそもお前には見えないんだろうが、と槻田にうながされる。

 自分と同じ顔をしているが、話が通じず、鎌を持って襲いかかって来るものより、ゾンビのようになっていても、幾分か話が通じる者の方がマシということか。

「でも――
 私は襲われたことないわ。

 ま、見えてないから頭に鎌刺さっても気づいてないだけかもしれないけど。
 向こうも私が見えてないのかも」

 地下から現れたトイレの霊が再び、地面に潜り込もうとしているのに気がついた。

「待って」
と触れはしないが、その動きを止めるように手を伸ばす。

「一緒に行きましょう。
 此処は危ないようだし」

 死人に今更危ないもないだろうと誰もが思っていたろうが。

 死んでいる当の本人さえ、異を唱えることなく起き上がってきたので、誰ももうそこには突っ込まなかった。

 彼もまた、此処を離れる理由が欲しかったのかもしれない。

 元気のない彼が心配だったので、とりあえず、出現の法則性については置いておくことにして、全員でこの場を離れることにした。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...