七竈

菱沼あゆ

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神隠し

証拠

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 戸口で固まってた久美を説得し、七月たちは焼却炉の前へと移動していた。

「林葉先生、居ないわねえ」
と辺りを見回す。

「やっぱ、家か拘置所かな」

 三橋は、そんなとこまで捜しに行くのは厭だという顔をあからさまにしていた。

 心配しなくても、そんなことをしている時間は恐らくない。

「そういえば、英嗣さん、たぶん、はぐれたままだけど」
と自分の背後を振り返ってみた。

 相変わらず、何も見えないが、憑いてはいない気がする。

「離れたまま、私が此処から帰っちゃったらどうなるのかしら」

「いいんじゃないか?」
と槻田は、焼却炉に立てかけてあった火かき棒を手に取りながら、素っ気なく言う。

「もともとこっちがあいつの家みたいなもんなんだから」

「薄情なお兄さんね」
と言うと、何故か恨みがましげにこちらを見る。

「……何よ」
と言ってみたが、ふいと横を向いてしまった。

 扱いにくっ!

 顔だけ見て、こいつがいいとか言ってる奴に、一度ちゃんとこの本性を見せとかなくちゃ、と思っている間に、三村たちは、灰の山を調べたり、近くにあったゴミを集めるてみなどをひっくり返したりしていた。

「ナナツキ」
と睨まれ、

「はい、やります」
と慌てて、槻田の手から火かき棒を奪う。

 槻田は溜息をつき、前にしゃがむと、錆びて赤茶けた焼却炉の蓋を開けた。

 中には僅かに灰が残っている。

 それを火かき棒でつつこうとしたとき、校長が言った。

「そういえば、それ、何処から戻ってきたんでしょうね」

「え?」

「火かき棒、なくなってたんですよね、かなり長いこと。

 買い直そうかとも思ったんですけど。

 生徒がそれで、チャンバラやったりするので危ないって主張する先生が居て」

 大きめのスコップとかで代用してたんですよ、という校長の言葉の途中で、既に七月は手にしていた火かき棒を槻田に向かって投げていた。

「何故、こっちに寄越す……」

 そりゃ持っていたくないからに決まっている。

 文句を言いながらも受け止めた槻田はそれを視線の高さまで上げ、眺めていた。

「それだと思う?」

「かもな」

 なにがだ、という目で三橋が見た。

 七月は厭そうに、今まで自分が持っていた火かき棒を指で差し、

「今、何処にあったっけ? これ」
と訊いた。

「焼却炉に立てかけてあったろ」
と槻田が答えてくれる。

「あって違和感のないものだったから、いつからあったかはわからんが」

「現実の世界でも、そこにあったかしら?」

 確認するように問うてはみたが、誰も覚えてはいないだろう。
 そこにあって、当然のものだからだ。

 そう皆に告げると、校長は、
「私は私で、なくて当然だと思っていたので、いちいち確認してませんでしたねえ」
と言う。

「いきなり現れてても、誰も違和感覚えないものだけど。
 実は、ずっと此処にはなかったもの、か」

 槻田は今は自分の手にある錆びたそれを見つめている。

「……触りまくったな」

「そうねえ。
 でも――

 血痕くらい出るかもよ」

 そのやりとりを厭そうに見ていた三橋が言う。

「それが、林葉の言ってた事件の『証拠』か?」

「いや。
 かもね~ってくらい?

 まあ、私が見た映像では、人が木にぶら下がってたから、この火かき棒がどう関係してるのか知らないけど」

 軽く言うなよ、と三橋は睨むが、或る意味当事者のこちらとしては、逆に暗く言いたくはない。

 深刻になり過ぎないよう、感情を遠い場所に置いておきたいのだ。

 三村が背後を振り返っていた。

「どうしたの?」

「いや、さっきの人、何処に行ったんだろうなっていうのと。
 現実には、今、何時頃なんだろ、と思ってさ。

 まだ、こっちに居られるのかな?」

「そうね。
 それと――」
と七月は槻田の手にある火かき棒を見、

「此処で証拠物件を見つけても、向こうの世界に運べるのかしら?
 ってのも、疑問よね」
と呟く。

 三橋が、
「トイレの男の死体を運んで、こっちに隠せたんだろ?
 運べるんじゃないか?」
と言う。

「こっちで殺されたのかもしれないじゃない。
 ああでも、待てよ。

 こっちからこれ持ってって、あっちの世界にも同じものがあった場合、どうなる訳?」

「そもそも、それ。
 林葉先生が、あっちの世界からこっちに持ち込んだのかもしれないよ」

「えっ、待って。
 先生は、死んでから初めてこっちに来たんじゃない?」

「そうだったっけ?」

 混乱してくる全員に向かい、槻田が、
「待て」
と言った。

「言い争うより、実際に、これを持ったまま、戻ってみればいいだろ。

 あっちに着いた途端、消えたら、現実に何処かにある火かき棒を捜してみればいい。

 まあ……これが本当に、林葉先生の言う証拠ならだが」

 なんだ? と槻田がこちらを見た。

「いや、今、『待て』って言ったとき、本当に先生みたいだったなと思って」

「……俺は今は、三百六十五日、本当に先生だが?」

 二人のやりとりを離れて見ていた久美が笑う。

 少しだけ落ち着いたようだった。

 七月は槻田の手にある火かき棒を見つめて言う。

「今すぐ戻ることは出来ると思うわ。
 来れたんだから。

 だけど――」

 いろいろと取り落としたまま、帰るのもなあ、と思う。

 英嗣とトイレの霊は霊なんだから、自力で行き来出来るかもしれないが、あの男はどうなる?

 槻田も同じことを考えていたようだ。

「どういう感じに繋がって、俺たちがこっちに飛べたり飛べなかったりしてるのかよくわからないが。

 あの男を此処に閉じ込めることになるのか。

 一緒に戻ることになるのか」

「閉じ込めといた方がよさそうな奴だよな」
と三橋が呟く。

「でも、そもそも自然に繋がったりもしてるわけだし。
 それでトイレの人たちも行ったり来たりしてるわけでしょ」

「でもまあ、今度は学校中の時計を繋げなくてもいいでしょうしね。
 此処に一塊で居て、とりあえず、手近な時計を回してみては」

 槻田が腕時計を外した。

 校長が、
「とりあえず、全員の腕時計を同時に回してみましょうか。
 実際のところ、何を切っ掛けに繋がってるのかよくわかりませんしね」
と言う。

 三橋が、
「来るときも、そんくらいシンプルでよかったんじゃねえか?」
と呟く。

「だって、帰りはともかく、行きは何処でどんな感じに繋がるか予想もつかないじゃないのよ」
と反論してみたが、三橋は聞いていない。

「もう~」
と言いながらも、皆と一緒に頭を付き合わせ、腕時計の針を回した。

「じゃあ、行きますよ」

 校長の合図で、4:44、一秒前に設定しておいた時計を同時に動かす。

 カチリ、と時刻が4:44を指した途端、狂ったようにチャイムが鳴り始めた。

「なっ、なんだ!?」
と三橋たちが校舎を振り返る。

 音の響き渡る夜空を見上げながら、三村が言った。

「矢部さんが来るときおかしなことしたから、この空間が、繋がるときにはチャイム鳴らさなきゃいけないと思い込んじゃったんじゃないの?」

「……現実にも鳴り響いてるとしたら、死ぬほど近所迷惑だな」
と槻田が呟いていた。

「ええっ!?
 私のせい?」
と言った途端、誰かがぐいっと肩を後ろから引っ張った。

「きゃっ」
 よろけた自分を槻田が抱きとめたとき、グウッと大きく空間が歪む感じがした。
 


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