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呪いの家
ヒトガタ
しおりを挟むさて、どうしようか。
あっさり七月に撒かれてしまった槻田だったが。
英嗣の屋敷の前まで来ていた。
この家は苦手だ。
らしくもなく、呼び鈴も鳴らせずに突っ立っていると、門が開いて、牧田が現れた。
こちらを見て、ひっ、と言う。
「……こんにちは」
屋敷から誰か出て来たら、たまたま通りかかったフリをしよう思っていたのだが。
牧田は、こちらを見て驚き、何故か、屋敷の方を振り返っている。
おかしいな、と槻田は思った。
「こんにちは。
……奥様は?」
「お出かけです」
「客が来ていませんか?
うちの生徒なんですが」
「来てらっしゃいます」
隠す事なくそう言った牧田は、ちょっと、というように手招きをする。
「此処、此処」
と英嗣は七月を促し、縁側から座敷に上がるように言う。
「此処でやりたいことがあるんだ。
チョーク持って来たよね?」
七月がそれを差し出したので、
「此処にこう、描いてくんない? こんな感じで」
と黒檀の机から畳にかけて、指で絵を描いて見せる。
「えっ?
何処に、どう……
っていうか、この立派な机にそれはどうですか?」
と言いながらも、チョークを持って、自分の指先をえどるように描いてくれる。
立ち上がった七月は腕を組んでそれを見つめ、
「……英嗣さんって、絵、下手?
なんでも出来たって聞いた気がしますけど」
と言う七月に、
「君のなぞり方が悪かったんじゃない?」
と言ったが、実際のところ、自分の絵がこんなものなのは知っていた。
「すみません。
一瞬、英嗣さんに見えてしまって」
そう詫びながら、牧田は槻田を中に通してくれる。
「生徒さん、いらっしゃってます。
奥様は今、お出かけ中です。
それであの――
お嬢さんを英嗣さんの部屋に閉じ込めるように言われまして」
「なんのために?」
「さあ……奥様のお考えは私にもよく――」
長く仕えている家政婦にさえ、そう言われる奥様もどうだ、と槻田は思っていた。
「英嗣さんのお部屋はこちらで」
と案内しかけた牧田が、途中の部屋で足を止める。
障子の開け放たれたそこには、チョークでヒトガタが描いてあった。
まるで殺害現場だ。
その黒檀の机に向かって倒れているヒトガタは、何故かパーティなどで使われる三角帽子をかぶり、調子に乗ったようなポーズを取っている
――ように見えた。
よく見れば、そのヒトガタのちょっと横に、妙な蓋つきのコップだか、ツボだかが描いてある。
それを見た牧田が、また、
「ひっ」
と怯えた。
確かに、死体を象ったチョーク画にしては、下手過ぎるし、また、陽気過ぎる。
異様だった。
牧田はその絵を見て、異常なまでに怯えていた。
顔色の悪い牧田に向かい、槻田は言った。
「知ってたんですね」
「え?」
「英嗣が死んだのは、呪いのせいでも、心筋梗塞でもないと」
「……な、なんの話でしょう」
英嗣は己れの死んだ姿を事件現場に見立て、再現してみせたのに違いない。
恐らくは、母親への嫌がらせのために。
それにしても――
なんだ、こりゃ。
どっちが描いたんだ。
あいつらの仕業に違いないが、どちらにしても、びっくりするくらい下手だな、と槻田は思っていた。
「閉じ込めたんじゃなかったんですか? 七月を」
牧田の怯え方からいって、先程までこの絵はなかったようだ。
庭先を覗く。
七月と英嗣の姿はない。
牧田は英嗣の部屋の前まで通してくれたが、鍵はないと言う。
「奥様が持って出てしまわれたので」
あの絵から察するに、七月たちはもう居ないと思うが、一応、ドアを叩き、呼びかけてみた。
「七月、英嗣」
英嗣の名まで呼ぶ自分を、牧田が不思議そうに見ている。
「鍵持って、何処に行ったんですか?」
「さあ。
でも、すぐに戻られるはずです。
そろそろ、染め物師の方がいらっしゃるので」
染め物師ね。
優雅な話だな、と思ったが、ああいう人にとっては、そういうことこそが重大事なのかもしれない、とも思った。
そういえば、うちの母親もよくどうでもいいことにこだわっていたな、と滅多に思い出さない自分の親のことまで思い出す。
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