七竈

菱沼あゆ

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呪いの家

訊きたかったこと

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 七月はしばらく、染め物師と『奥様』のやりとりを眺めていた。

 奥様って表現が正しい人だな、と思う。

 そして、英嗣の母親というのに、一番しっくりくる人だ、と思った。

 まあ、槻田の母親に会ったことがないので、なんとも言えない部分もあるが。

 英嗣は中に入らず、障子のところからこちらを見ていた。

 なんとも困った図だ。

 自分を殺したであろう母親を障子の陰から窺う息子の霊。

 陰惨になりそうな感じだが、ただ静かだった。

 恐らく、英嗣の表情が思ったより落ち着いているからだろう。

「七月さん」
「はい」

 またもいきなり呼ばれて、母の背を見ている英嗣から視線を引きはがす。

 どうやら、用は終わったようだった。
 帰り支度を始める染め物師を見ながら、英嗣の母は七月に言った。

「貴女、この方にお訊きしたいことがあるんじゃないの?」

 やっぱり、恐ろしい人だな、と思いながら、七月は軽く頭を下げて口を開いた。

 さっきから、なんと切り出そうか、迷っていたのだ。

「あの――
 息子さんはお元気ですか?」

 染め物師は、ん? という顔をする。

「どの息子ですか?」

 そうか。
 複数居たのか、と思いながら、
「すぐ、ぶっ殺すぞ、とおっしゃる息子さんです」
と七月が言うと、彼は笑って言った。

「ああ。
 あの放蕩息子ですか。

 最近、会ってないんでね」

 突き放したように言いながらも、その目許は淋しそうだった。

 そういえば、あの人もそうだな、と思っていた。

 口調は過激だが、目許はいつも寂しそうだ。

「お父様とそっくりでらっしゃいますね」

 はは、と彼は笑い、
「顔だけはね。
 まあ、私も実は若い頃、あんな風だったんですよ。

 なんだか昔の自分を見てるようでね」

 余計辛く当たってしまうのかもしれませんね、と言う父親は、あまり息子の人生には触れたくないようで、高校生の君がどういう知り合いなのかねとも訊いてはこなかった。

 
 

 門の外、七月は、牧田とともに去って行く染め物師を見送った。

「……すみません。
 部屋、お掃除して帰りましょうか」

 なんとなくそう言うと、牧田は、いえ、と言う。
 力ない声だった。

 あの絵は、英嗣が母親に見せるために描かせたもののようだが、気分が暗くなったのは、むしろ、牧田の方のようだった。

 牧田は英嗣の母の犯罪に手を貸していたのか。

 英嗣の話をしたときに、涙ぐんでいた彼女の顔を思い出す。

 奥様のために黙ってた、が、正解かな。

 意外と人望あるのかな、あの人。
 それとも、ただ恐ろしいだけなのか。

「帰る前に、ちょっと奥様にご挨拶したいんですけど」

 どうぞ、と言う牧田の後に付いて戻る。



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