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ラジヲ
意外に重い
しおりを挟む槻田が七月を抱えて、隣の寝室に入るのを英嗣は薄目を開けて見ていた。
やれやれ。
冷静な判断能力がないらしい、と思う。
僕が目に入ってないし。
僕がほんとに寝てるわけないじゃない。
そんなことを考えている間に、扉が閉まった。
……静かだな。
なかなか出て来ないし。
無性に隣に行きたい衝動に駆られたが、被れるはずもない布団を被るように、コタツに潜り込む。
僕はもう死んでるんだから、関係ない。
隣で何が起こってても関係ないし。
七月ちゃんがあいつを好きでも嫌いでも関係ない。
僕は、あのとき、自分で選んだんだから。
この先、自分の人生に起こるだろうすべての出来事を起こさないようにすることを。
自分を産んでくれた人のために、自分の人生を消すことを――。
意外に重かった――。
七月に言ったら、殴られそうなことを思いながら、槻田は七月をベッドに下ろす。
だが、腕からその重さが消えた途端、ふっと淋しくなった。
薄いカーテンだけ閉められた窓から七月の顔に月明かりが射し込んでいる。
しばらく、それを眺めていた。
そのまま立ち去るつもりだった。
実際、足は踏み出しかけていたのだが、つい、振り返り。
つい、無邪気に半開きになっている唇に視線を留めてしまう。
身を屈め、ベッドの上に肘をつき、少し迷って、唇を寄せてみた。
すぐに離すつもりだったが、そのまま七月の肩に手をかけ、長く口づけてしまう。
「英嗣っ。
おい、英嗣っ」
コタツに潜り、瞑想の世界に入りかけていた英嗣は兄の声を無視しようとした。
だが、しつこく呼んでくる。
「なにっ!?」
と言いながら、コタツと隣の部屋のドアを一気にすり抜けた。
ああ、霊は不便だ。
こんなことも出来てしまう。
やりたくもないのに。
兄は七月の寝ているベッドの足許に立っていた。
「なんか用っ!?」
と怒ったように言うと、蒼い顔で、
「いや……誰か居ると確認したくて」
と言う。
いやもう、どうなんだろうね、この人は。
情けなくもあり、愛おしくもある。
この人と七月に関しては、生前知っておきたかった気もする。
この二人が身近に居たら、きっと、僕は逃げることを選ばなかった。
これを飲めば死ぬとわかっていて、素直に毒をあおったあの行為を、逃げだと、今なら言い切れる。
死んで初めて兄だと実感できた男に向かい、溜息をついて言った。
「いいんじゃないの? 別に。
七月ちゃん、お前が好きなんだから。
まあ……、ちょっとは怒るかもしれないけど」
結局、兄弟そろって、コタツで寝た。
眠らないはずなのに、うとうとと、夢を見る――
だから、途中で、あの情けなくも愛らしい兄が此処を抜け出していたとしても、気づけなかったわけだけど。
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