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冬 終章 消えた日常
成仏する気ないんだろ?
しおりを挟む朝、目を覚ました槻田は、頭の上辺りに、何かの霊が居るのに気がついた。
見れば、和室のざらついた壁に縋るようにして、英嗣が座っている。
なにやってんだ、こいつ。
英嗣は、窓の辺りに頭を預け、ぼんやりとしていた。
こちらが見ているのに気づき、
「おはよう、おにいちゃん」
と言う。
こいつが、おにいちゃんなんて言うときにはロクなことがない、と思いながら、起き上がった。
「人が気を利かせて居なくなってても、そのまま帰ってきちゃうマヌケなおにいちゃん、おはよう」
……なんで、そのまま帰ってきたってわかるんだ。
姿消してただけで、側に居たんだろう、と思いながら、自分によく似たその白い顔を見る。
「英嗣」
「なに?」
「お前、俺と来るか?
七月と残るか?」
そう問うと、彼は笑い、
「どうしたの?
離婚の調停?
僕の親権でも争ってんの?」
と言い出す。
結婚してもないのに、離婚の話をするな、縁起の悪い、と思いながら、続けて訊いた。
「まだ成仏する気ないんだろ?」
「して欲しい?
っていうか、成仏って言い方変だよね。
僕がクリスチャンだったら、どうするわけ?」
と言い出す。
黙っていると、笑い出し、
「ほんと、真面目だよね。
七月ちゃんだったら、クリスチャンなら、裁かれて地獄に落ちろっ、とか言い出すよ」
と言ってきた。
そりゃ、仏教でも同じだろ、と思いながら、
「七月と居るんだな」
と確認する。
「そりゃあ、そうでしょ。
安心して帰ってよ。
なんかあの学校の事件、解決してないみたいだけど。
それより、戻って、調べたいんでしょ?
警察組織が今、握りつぶそうとしていることはなんなのか」
それには答えず、布団を畳んで片付けたあと、英嗣の前に正座した。
なになにっ? と少し怯えた風な彼に、
「七月を頼む」
と頭を下げてみたが、返事はない。
だが、顔を上げてみると、英嗣は意外にも真面目な顔で聞いていた。
しかし、こちらの視線に気づいた彼の表情は、すぐに、いつものように横柄なものに変わる。
「頼むって。
別に七月ちゃん、あんたの所有物じゃないんだから」
英嗣の減らず口は続いていたが、
よし。
言うだけのことは言ったな、と思った槻田は立ち上がり、朝の準備のために部屋を出た。
「も、ちょっと!
聞いてる!?
なんでそうマイペースなの、おにいちゃんっ」
と背後から、自分こそマイペースな英嗣が叫んでいる。
……遺伝だろ、と思いながら、顔を洗った。
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