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それ、事件じゃないんですかっ!?
嫌な予感がする
しおりを挟む生徒用のテントに戻ると、また、みんなに桂のことをあれこれ訊かれたのだが。
そういえば、自分もあまり詳しくは知らないな、と夏巳は気がついた。
今は貧乏そうなことを言っているが、なんとなくお坊っちゃまっぽいこととか。
おばあさまがフランス人なせいか、いきなり頰にキスしてきたりするのが困りものなことくらいしか……。
うむ。
伏せておこう、そのことは、と思ったとき、本部テントの裏で騒ぎが起こっているのに気がついた。
……なにかこう嫌な予感がする。
ちょうど出番がなかったので、駆けつけると、やはり桂が居て、みんなが彼を取り囲んでいた。
よく見ると、桂のシャツの肘が汚れ、頰に少し擦り傷が出来ている。
ぎゃあああああっとすごい悲鳴が後ろで上がったと思ったら、バレー部の佐川と祥華だった。
誰か死んだのかという勢いだったが、桂の顔に傷がついたのを見たからのようだった。
「なんてことをっ」
「誰がこんなことっ」
と息ぴったりに、二人が叫ぶ。
「まあ、テント裏、通るのに狭いから混み合ってるし、たまたまぶつかったんだろ。
そんなことより――」
と桂は下を見た。
彼の足許にしゃがんでいる校長先生の方が腕にも額にも大きな擦り傷ができていて、大怪我だった。
患部に砂も入ってしまっていて痛そうだ。
「だ、大丈夫ですか?」
と夏巳は側に膝をつき、ひょろりとした校長先生に声をかける。
誰かとぶつかり、弾き飛ばされた桂が、今度は、前を歩いていた校長先生にぶつかって、二人一緒に側溝に転げ落ちたようだった。
「誰が先生をっ!」
とまだ叫んでいる佐川の前で、夏巳は校長先生の傷の具合を見ながら、
「いや、どっちかと言えば、校長を、では……」
と呟く。
だがまあ、校長先生は巻き添えを食らっただけなので。
誰かが校長先生を狙ったとかではないか、と思いながら、夏巳が辺りに撒き散らされたままのプリントや鍵などを見たとき、
「いや――、待てよ」
と桂が言った。
背筋の辺りがざわつく。
ヤバイ。
先生があれを言いそうだ。
「先っ……」
と夏巳が止めようとしたとき、桂はもう言っていた。
「もしかしてっ。
これは事件じゃないのかっ?」
「……先生。
違うと思います……」
力なく夏巳はそう呟く。
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