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それ、事件じゃないんですかっ!?
先生のおかげですよ
しおりを挟む「体育祭、無事に終わってよかったな」
「はい、ありがとうございます。
先生のおかげですよ」
夏巳はそう言いながら、テントの杭を桂とともに運ぶ。
桂はテントを片付けるのまで、埃まみれになって手伝ってくれて、女の先生やママさんたちに神! と崇められていた。
……いや、他のお父さんたちも普通に手伝ってるんだが。
桂がほとんど持ってくれたので、夏巳は申し訳程度に杭を一本持っているだけだった。
二人で体育館の倉庫に向かって歩く。
「先生が事件をあれ以上大きくしないでくれたから、無事に体育祭、終わったんですよ」
そう夏巳は言った。
「あの場では確認しなかったけど。
あの危険な側溝に向かって先生を突き飛ばしたのは、副市長じゃないですよね?」
桂は黙って体育館の前の大きなセコイアの木を見ている。
「だって、先生が副市長に探偵だって紹介されたの、突き飛ばされた後ですもんね。
まあ、副市長が佐川先輩たちが騒ぐのを聞いて知ってた可能性もありますけど。
副市長も秘書の人も来賓席に居たから、私たちのテントの方には全然来てないですし。
だから、本部席の後ろを通ってた先生が突き飛ばされたのは、先生が探偵だったからじゃなくて。
『いつか何処かで、なにかを目撃していた』先生がそこに居ることに、犯人が気づいたからなんじゃないですか?」
いつの間にか二人は足を止めていた。
「先生は、誰かが悪事を働いているところにたまたま通りかかったんです。
先生がそのことを覚えていなくても、先生は目立つから、犯人は先生に目撃された、と思い込んでいたんです」
副市長と同じように、と夏巳は言う。
「本部の後ろを通りかかった先生に気づいたその人は、今、この場で顔を合わせたら、先生に自分が何者なのかバレてしまうと思い、背後から先生を突き飛ばした。
ちょっと怪我でもしてくれたら、自分の顔を見る前に帰ってくれるかもししれない。
そう思ったからです」
立ち止まったまま、なにも言わない桂を見上げていたが、倉庫の入り口に立っていた若い体育教師に急かされる。
「おい、釘ー。
早くー」
桂と二人、倉庫にとりあえず、釘を置きに行き、またグラウンドに戻った。
ほとんどのテントは畳まれ、撤収のための軽トラがあちこちに入ってきていて、砂埃が舞っている。
体育祭もいよいよ終わりな感じだな、と夏巳は思った。
「先生は、自分を突き飛ばした人物がもうひとり居ることに気づいていたけど、言わなかったんですよね。
体育祭がこれ以上の騒ぎにならずに終わるように。
それはたぶん。
もうひとりの犯人が先生を突き飛ばした理由が、副市長みたいに、癒着と疑われそうな人物にご馳走になってしまったとかいう、しょうもないことじゃなかったから」
ありがとうございます、と夏巳はもう一度言い、桂に向かい、微笑んだ。
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