先生、それ、事件じゃありません２

それ、事件じゃないんですかっ!?

これは犯罪なのか……？

　

「先生、いつでもなんでも事件にしたがるのに、気を使っていただいて。

　私、最初は先生、副市長以外の誰かに突き飛ばされたのはわかってても、誰なのかは知らないのかと思っていました。

　でも、あのあと、先生が女の先生と話してるの見て、そうではないと気づいたんです」

　この間此処に来たばかりの桂はまだ知人も少ないはずだ。

　それが、彼の生活に、なにも関わりのなさそうな高校の女の先生とあのあと話していた。

　それも珍しく、桂の方から彼女のところにわざわざ行って、話しかけていたようなのだ。

　女性が向こうからやってきて話しているのはよく見るが、桂の方から、わざわざ移動していって話しかけることは滅多にない。

　しかも、桂は、
「先生って、なんか先生ってわかるよなー。
　道や呑み屋で会っても」
という話を昼にしていた。

　灼熱のグラウンドで、重装備の女の先生が水を撒まいているのを見ながら。

「あれは、道か呑み屋で会ったか見たかした人が、やっぱり先生だったなと確信したからだったんですよね？」

　桂は答えなかったが、間違いない気がしていた。

　そのことを本人にさりげなく確かめに行ったのだろう。

「副市長が、先生を見て犯行がバレると思い、突き飛ばした、と言うのを聞いた先生は、もしやと思ったんです。

　あの女の先生と何処かで出会ったことが、自分が突き飛ばされたことと関係あるのではないかと。

　でも、あの先生、笑って先生と話してましたよね？

　遠目に見ていても、先生に話しかけられて強張こわばっているという感じではなかったです。

　だから、きっと、あの女の先生自身はなにも知らないんだと思います。

　自分の犯した罪を先生に見られていたことも。

　自分が原因で蒲生先生が突き飛ばされたことも」

　教師も結構な人数が居るので、生徒も全員を把握しているわけではない。

　非常勤の先生などは特に。

　なので、あの女の先生の名前も年も素性も知らなかった。

　だから、彼女がどんな犯罪に関わっているのかはわからないが。

　彼女ではなく、彼女と関係のある誰かが先生を突き飛ばしたのは確かな気がする、と夏巳は思っていた。

　……犯罪。

　犯罪か。

　犯罪、ではない気がするな。

　たぶん、なにかまずいことだ。

　実は、ちょっと想像していることはあるんだが、と思ったとき、背後からよく通る声がした。

「蒲生先生が、藍子あいこさんが原因で突き飛ばされたのかもと気づいたのは、私と握手をしたとき、私の手に指輪があるのに気づいていたからですよね」