ここは猫町3番地の4 ~可哀想な犯人~

菱沼あゆ

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あやしいのはどっちだ

何故、お前の傘じゃないとわかる?

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「何故、お前の傘じゃないとわかる?」
と将生に訊かれた琳は、

「それは……っ」
と言いかけ、口を閉ざした。

 ヤバイ。
 その理由を此処で言うわけにはいかない。

 この人たちが警察の人たちだからだ。

「……ともかく、私の傘ではないです。
 じゃあ、これ、犯行に使われた傘かもしれないですね」

 あっさり琳はそう言った。

「何故だ。
 似たような傘だからか」

「たぶん、何処かですり替わったんでしょうが。
 犯人がすり替えたのかもしれないです。

 凶器を自分の手許から遠ざけるために」

 そう言いながら、でも、変だな、と思っていた。

「事件が起こったの、いつでしたっけ?」

「六日前ですよ」

 椋木が教えてくれる。

「そうですか。
 じゃあ、違うかもしれないですね」

 そう言って琳は、おのれのものではなかった傘を見つめる。

「何故だ?」
と将生が問うてきた。

「だって、私がこの傘さして出かけたのって、此処、二、三日のことなんですよ。
 犯人は六日前から凶器の傘持ってたわけでしょう?

 なんで、今になってすり替えるんですか。
 私ならすぐに手放します」

 私ならって……という顔をした将生が言った。

「だから、なんでお前の思考はいつも犯罪者寄りなんだ……」

 だが、カウンターに座る佐久間は、
「いえいえ。
 犯罪者の考えに寄り添う。
 事件解決のためには、刑事として大切なことです」
と頷いていた。

 もれなく、
「こいつは刑事じゃないんだが……」
と将生に呟かれていたが。

「あ、でもまあ、簡単ですよね。
 これが凶器かそうじゃないか。

 ルミノールかけてみればいいんですよ」

 かけてもいいですか? と訊いて、将生に、
「いいぞ、別に。
 ほんとうに凶器なわけないからな」
と言われる。

 嫌味にもめげずに、琳は、はーい、と奥に入り、ルミノールをとってきた。

 新聞紙を敷き、その上に傘を置く。

「あ、すみません。
 暗くしてください」

 照明のスイッチがある場所に近い常連さんに頼む。

 よし来たっ、と張り切って消してくれた。

 外からの灯りや電気機器の灯りしかない中、琳は、まず傘の先端にかけてみた。

 喉を一突きにした疑いのある部分だ。

 ルミノールがかかった瞬間、青白い光が一瞬、光った。

「あっ」
「えっ?」
と息を呑んで見つめていたらしい客たちから声が上がる。

 今度は傘全体にかけてみる。

「あ、かけすぎちゃった」

 傘ではなく、ルミノールが飛んだ床が光った。

「待て。
 何故、此処の床が光るっ。
 殺人事件かっ」
と将生のものらしき声がした。

「いえいえ。
 此処でこけて擦りむいたことがあるので、それででしょう。

 前かけたときはなにもありませんでしたから」
と言って、

「何故、前かけたことがある……」
と言われる。

 刑事でもないのに、突っ込んで訊いてくる人だ……、
と思ったそのとき、椋木の声がした。

「光ったの、先の方だけでしたね。
 怪しいですね。

 被害者は強く喉を突かれましたが。
 実際、血はそんなに飛び散ってはいないみたいなんですよ。

 凶器の条件に合致してますね。
 これ、本当に犯行に使われた傘なのかもしれません」

 そのとき、何処かで誰かが、
「えっ?」
とまた言った。

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