ここは猫町3番地の4 ~可哀想な犯人~

菱沼あゆ

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あやしいのはどっちだ

まあよくないと思う……

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 えっ? と声を上げたのは、犯人だった。

 琳の傘と傘をすり替え、今、店内の片隅に、ひっそり客として居る犯人だ。

 犯人は思っていた。

 そもそも、さっきからなにが起こっているのか。

 いきなり、あの傘を刑事たちが取り囲み。

 いきなり、ルミノールを吹きかけ。

 ……いや、そもそも、何故、喫茶店のカウンターの奥からルミノールが出てくるっ。

 自分の手許から凶器を遠ざけようと、美しすぎる以外、ごくごく普通の女性に傘を託したはずだったのに。

 何故、こうなるっ!?

 犯人は心の中で絶叫していた。

「雨宮……」
と傘の側にしゃがんでいたあのイケメンが呼びかける。

「この傘が凶器かもしれない、はまあいい」

 まあよくはないと思いますが……。

「そんなことより、さっきからのお前の言動はおかしい」

 いや、なにもかもおかしそうですよ。

「犯人のものとすり替えられたお前の傘にはなにがある?」

 えっ、と女店主、雨宮琳は身構えた。

「素直に吐け。

 大丈夫だ。
 お前もよくご存知なように、此処のお客さんたちはみな口が堅い」

 お客の皆さんがうんうん、と笑顔で頷いている。

 なんとなく自分も頷いた。

 ……それにしても。
 何故、自分じゃなくて、あの人が追い詰められてるんだろうな……と思いながら。

「そ、そうですか?」
と琳は、仕方なさそうに口を割る。

「あの、消えた私の傘はですね」

 新聞紙の上の傘の持ち手を指差し、琳は言った。

「此処が外れるようになってて。
 中に短刀が仕込んであるんです」

 えっ? と犯人は外に置いてきた傘を振り返る。

「仕込み刀かっ」

 お前はスパイかっ。
 銃刀法違反だぞっ、とイケメンに罵られた琳は、いやいやいや、と苦笑いして、手を振っていた。

「やだなあ、刀じゃなくて、ちょっとした短刀ですよ?」

 傘全体じゃなくて、持ち手だけに仕込んであるやつです、と弁解している。

「それに私のはマジックで使うナイフみたいに。
 押したら引っ込むようになってるんですよ、基本」

「基本?」

 わずかな言葉を聞き逃さず、イケメンは琳を睨んだ。

「……それにしても、なんでそんな危ないもの持ってるんだ」

 えーと、とこめかみ辺りを掻きながら、困ったように琳は言う。

「手に入れたのは、たまたまだったんですけど。

 まあ、夜道とか危険ですからね。
 危ない人を脅すのに使おうかと」

「いや、お前が危ない人だろう……」
と言われていたが。


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