ここは猫町3番地の4 ~可哀想な犯人~

菱沼あゆ

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あやしいのはどっちだ

どちらを優先すべきだろうか?

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 さっきから顔色が悪い人が居るな、と琳は思っていた。

 自分がルミノールを振りかけたり、傘について説明したりしていると、顔が赤くなったり、青くなったりする客が居る。

 えっ? とさっきから妙な声を発しているのもこの人かもしれない。

 どうやら、初めて見たお客様のようだ。

 新規のお客様なら、ぜひ、常連になっていただきたいのだが。

 なにかがおかしい……。

 突然、喫茶店の店主がルミノールを振りかけ始めたのを怪しんでいるだけ、というわけではなさそうだ。

 もしや、犯人だろうか。

 傘をすり替えたものの、気になって様子を見に来ていたとか?

 そんな莫迦な。

 私なら近寄らないけど、とまた犯罪者寄りの思考になりながら琳は思う。

 チラ、と将生たちを窺った。

 将生たちは、その客には気づかず、傘について話している。

 あの人ちょっと怪しいですよ、と教えてみるべきか……?

 傘の前にしゃがんでいる琳は、チラ、と今度は、あの新規のお客様を見てみた。

 高校生くらいに見えるその青年は可愛らしい顔をしており。

 息を詰めてこちらを窺っている。

 ……なにかおかしくても、常連さんを増やすために黙っておくべきか。

 いやいや。
 それも問題だろう。

 琳はひとしきり迷い、そして、面倒臭くなった。

 すっくと立ち上がり、琳は言う。

「わかりました」

 え? わかりました? と佐久間が見、

 なにがわかった……。
 またロクでもないことだろう、という顔で将生が見る。

 琳は、その客が居る扉付近の席を指差し言った。

「殺人犯の方がそこにいらっしゃいます」

 えっ? とみんながその指先に居るだろう犯人を探して振り返る。

 一番後ろの席の人たちまで振り返っていた。

 だが、ひとり振り返らなかった者がいた。

 片隅に居たあの客だ。

「ぼ、僕、殺人犯ではないですっ」
と弁解しながら、立ち上がる。

 いえ、あなただとは言ってませんし。

 ふわっとその辺を指差しただけなんですが……。

 そう琳は思っていたが。

 なにかがやましいらしい彼は動揺しながら、立ち上がっていた。

「……じゃあ、なんの犯人なんですか?」

 琳は彼に向かい、そう訊いてみた。



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