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傷の入ったレコード
ほんとうに、あなたが殺したんじゃないですよね?
しおりを挟む「本当に高坂さんがやったんじゃないんですよね?
院長先生と津田秋彦」
言われるがまま、高坂の部屋で仕事をしていた真生は、そう訊いてみた。
「あいつら殺して俺になにかいいことでもあるのか」
「いえ、単に、津田秋彦とやらが消えても心配しているようにはないからです」
と言うと、
「心配はしてるさ」
と真面目な顔で高坂は言う。
「俺が疑われるからな」
「まあ、そうですよね。
その疑い、晴らさなくていいんですか?
院長になるのに障害になりますよね」
と言うと高坂は打っていたタイプライターから顔を上げないまま、渋い顔をする。
「まあ、あの院長が本物なら、院長に関しては、なにも問題ないわけですが。
ご自分で調べてみられてはどうですか?」
「何故、俺が探偵のような真似を」
そう高坂が言ったとき、あれっと思った。
さっきまでそんなものなかったのに、カーテンが一部、人の形に盛り上がっていたからだ。
高坂は気にしていないようだが、真生はそこまで行き、カーテンを開けてみた。
なにもいない。
ただ、ぼんやりと道路にあるガス燈の灯りが見えるだけだった。
「……いっそ、なにかいた方がマシでした」
と呟くと、高坂は、
「そうか? この部屋の外で、うごめいているような連中がカーテンの陰にいたらどうする?」
と言ってくる。
「それはそれで見慣れているので。なにもいない方がなにがいたのかな、と思って、妄想がふくらむじゃないですか」
と言うと、高坂は笑う。
まあ、この人もこんなところで暮らしているくらいだからな。
少々のものは見慣れているんだろう。
そう思いながら真生が、
「高坂さん。お手洗い行ってきます」
と言うと、高坂は、
「別に、いちいち断らなくていいぞ」
と軍から来たという書類を見たまま言ったが、顔を上げ、ああ、と思い出したように付け足した。
「女子便所は中から手が出て引っ張るそうだから気をつけろ。
便器に引っ張り込まれそうになった女に触るの厭だから」
「……触らなきゃいいんじゃないですかね?」
と言って、真生は霊よりも厄介な男のいる部屋を出た。
字を見過ぎて疲れたな。
小さく欠伸をしながら、歩いていた真生の足を誰かがつかんだ。
うつ伏せに這ってきた男。
今の学園にも出るあの男の霊だ。
『殺されたんだ。
俺はお前に殺されたんだ……。
お前に殺されたんだ。
……真生』
真生は冷ややかにその霊を見下ろした。
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